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江崎道朗

【第1172回】候補者は「皇室の伝統」に敬意を―自民総裁選

江崎道朗 / 2024.08.26 (月)


国基研企画委員・麗澤大学客員教授 江崎道朗

 

 自民党総裁選では多くの課題が議論されるが、ここで確認しておきたいことがある。それは現在、国会で議論されている皇族数確保策のことだ。

 ●旧皇族復帰案に立憲・野田氏が抵抗
 我が国は、天皇陛下を「国民統合の象徴」として戴く立憲君主国家だ。ところが天皇陛下をお支えする皇族がこのままだといらっしゃらなくなるかもしれない。そうした危機感を背景に令和3年、当時の菅義偉政権が「安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等」に関する有識者会議を設置し、令和4年1月に報告書をまとめた。この報告書において政府は「歴代の皇位は、例外なく男系で継承」されてきた先例、皇室の伝統を重く受け止めると共に、皇族数の確保を図ることは喫緊の課題だとして、(1)女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持する案と、(2)「皇統に属する男系の男子」が皇族になる案を提示した。
 皇室のことを党利党略で議論してはいけない。こうした良識から与野党の大勢は、この政府案を支持した。いわゆる「女性宮家」を強く主張していた立憲民主党も、党内に(2)の男系男子復帰案を強く支持する伝統重視派議員が少なからず存在したことから意見集約を断念し、両論併記の「論点整理」を提出した。
 かくして先の通常国会中に衆参両院議長主導で各党の意見集約を図ろうとしたが、「女性宮家」にこだわる立憲の野田佳彦元首相らの反対で協議はまとまらなかった。通常国会後も「先延ばしすることのできない課題だ」(額賀福志郎衆院議長)との考えから、衆参両院の正副議長による各党派個別の意見聴取が進められた。額賀議長は8月7日の記者会見で、(1)の女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持する案はおおむね賛同を得たとする一方、(2)の男系男子復帰案については「積極的な意見も多く述べられたが、反対論もあり、引き続き議論をしていく」と述べた。意見集約が進まなかったのは、立憲の野田氏らが反対したためだと思われる。

 ●女系天皇容認の石破、河野氏
 しかも今回、自民党総裁選に名乗りを上げている候補者のうち、石破茂元幹事長と河野太郎デジタル相は「女系天皇」案を支持するかのような発言をしている。石破氏または河野氏が自民党総裁になった場合、皇室の伝統を踏まえた皇族数確保案はどうなっていくのか。野田氏と組んで女系天皇案を作成し直そう、みたいにならないとも限らないのだ。
 こうした事態を回避するためにも、自民党所属の政治家と党員は総裁選に際して、皇室の伝統を断固として守る姿勢を見せてもらいたい。
 ちなみに衆参議長による意見集約の事務局を担当している衆参の法制局は平成29年、一部野党の意見を採用して「女性宮家の創設」を明記した「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」をとりまとめている。皇室の伝統を尊重する政治家の皆さんには、衆参の法制局による文案作成が妙なことにならないよう、くれぐれも精査をお願いしたい。(了)