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奈良林直

【第1173回】原子力の最大限活用こそ首相候補の条件

奈良林直 / 2024.08.26 (月)


国基研理事・東京工業大学特任教授 奈良林 直

 

 太陽光や風力発電は原子力に代わるクリーンなエネルギーとして世界的に持てはやされてきたが、今やこれら再生可能エネルギー(再エネ)の電力供給源としての力不足が認識される一方、原子力が地球温暖化対策の切り札として強力に推進され始めた。福島第一原子力発電所事故の教訓で世界中の原発の安全性は強化され、革新原子炉の建設も始まっている。
 折から、次の首相を決める自民党総裁選が事実上スタートした。エネルギーの供給は国家存立の基盤であり、原子力の最大限の活用を推進することが次の首相の必須条件である。

 ●原発推進は世界の潮流
 日本ではあまり知られていないが、原発推進は既に世界の潮流になっている。
 私も参加した6月の米国原子力学会年会では、約1200人を収容するラスベガス最大のホテルの会議場が満員の状態で、米エネルギー省の長官や電力会社幹部に加えて、メタ、マイクロソフト、グーグルといったIT企業の幹部らがパネル討論を繰り広げた。米国では生成系AI(人工知能)の急速な普及により電力需要が急増している。年会では、2030年代に100ギガワット(発電容量100万キロワットの原発100基分)、2040年に100ギガワットの電力をそれぞれ新規原発から供給し、これによって現在の100ギガワットの原子力発電を3倍にし、カーボンニュートラルを同時に達成するとの宣言が採択された。
 8月にプラハで開催された原子力工学国際会議では、前欧州原子力学会会長のレオン・シゼル教授から、欧州のCO2排出量マップが紹介された。地図上で排出量の少ない「グリーン」の国は、ノルウェー、スイス、フィンランド、スウェーデン、フランスといった原子力発電と水力発電の国々だった。再エネに大金をつぎ込んだドイツは今年、原発を全て止めたためにCO2の排出が逆に増え、排出量の多い「焦げ茶色」の国となった。

 ●「小石河」のエネルギー政策は失格
 我が国は太陽光発電を中心に巨大な投資を行ってきた。これを推進してきたのが河野太郎氏だ。河野氏は前回の総裁選で、安全が確認された原発の再稼働を容認すると発言したが、同時に、青森県六ケ所村の日本原燃再処理工場の稼働は認めないと主張した。再処理工場が稼働して営業運転に入らないと、全国の原発の使用済み燃料プールが満杯になって、原発が運転停止になる。河野氏の主張は反原発そのものなのだ。
 小泉進次郎氏は環境相に就任するや、ニューヨークの環境関連の会合で「日本もCO2の排出削減にセクシーに取り組む」と発言したが、記者から削減方法を尋ねられて沈黙し、発言が空虚であることを露呈した。環境相就任直後の会見では「どうやったら(原発を)残せるかでなく、どうやったらなくせるかを考えたい」と語り、脱原発派に寄り添った。
 石破茂氏は今回の総裁選出馬表明に当たって、「原発ゼロに最大限努力する。再エネの可能性を最大限引き出すことによって、原発のウェートを減らせると思う」と発言した。河野、小泉両氏と同様に、エネルギー政策では首相の条件を満たさない。(了)