国基研理事長 櫻井よしこ
巨大地震と巨大津波と複数基の原子力発電所事故。私たちはいま、日本1国を超え、人類の歴史始まって以来の大惨事に見舞われている。この試練に私たちはなんとしてでも打ち勝ち、大惨事を乗り越えていかなければならない。
開かれなかった安保会議
にも拘わらず、菅直人首相及び民主党政権の対処は狂気の沙汰である。地震発生からすでに丸10日が過ぎた3月21日現在も、菅首相は安全保障会議も中央防災会議も開いていない。安保会議を開催し、警察法71条及び72条に基づいて緊急事態を布告すべき時に、日本国最大の危機に対処する基本的枠組みが作られていないのである。
過熱し続ける複数基の原発が万が一、格納容器の爆発などのさらなる大惨事につながった場合、数十万の国民を誘導、避難させ、生命の安全を守る態勢を整えなければならない。地方自治体や地方の公権力を全て統合して、国家の全力を出し尽くす時である。だが、そのような危機対処の国家的枠組みに、菅民主党の考えは全く及ばないのである。
非常時に首相に大権を与える法律は三つある。第一は前述の安保会議と警察法である。第二が自衛隊法76条による防衛出動、第三が災害対策基本法第28 条による緊急災害対策本部の設置である。
機能しない官邸
今回、菅首相が第三の緊急災害対策本部を設置したこと自体は評価する。しかし、首相が災害対策基本法の意味も意義も理解していないために、全く結果を出し得ていない。
経済戒厳令とも呼ばれる同法は、首相に物流を強制的に統制する権限を与えるものだ。蓮舫大臣が国民に買い溜め自制を呼びかける前に、首相はなぜ 全国の物流を割り振り、被災地への物資輸送を最優先しないのか。被災地の困窮は、首相及び官邸の無策の結果だ。
他方、容易ならざる事態が各省庁で起きているという。福島原発の対処に関する情報や知恵を出すのをためらう空気が否定出来ないというのだ。進言すれば自らの出番となり、自らに被曝の危険が及びかねないことが理由か。仮にそうであれば日本国の怯懦はここに極まる。
その中で、決然と行動しているのは自衛隊と警察そして消防隊だが、彼らの力でさえも最も有効的に活用されている保証はない。ここでも理由は官邸である。官邸が機能せず、省庁間の調整が行われていないからだ。
そしていま、菅首相は仙谷由人氏を官房副長官に迎えた。自衛隊にも警察にも信を置いていないかのような人物をいま官邸に迎えることこそ、新たな 国難を招くものだ。(了)
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第81回:欠落する危機対処の枠組み(櫻井よしこ)
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