英紙フィナンシャル・タイムズ電子版は12月20日、トランプ次期米大統領が、ウクライナへの軍事支援を続ける一方で、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の国防費の割合を国内総生産(GDP)の5%に引き上げるよう要求したと報じた。ロシアの脅威に直面する欧州諸国は、ウクライナ軍事支援で米国に頼るだけでなく、もっと多くの負担をすべきだということだ。
●トランプ氏は欧州同盟国に5%を要求
2014年、NATO加盟国は2024年までに防衛費をGDPの2%以上に引き上げる目標を設定したが、この目標を達成した加盟国は32か国中23か国にとどまる。このためNATOのルッテ事務総長は、現在の防衛支出が将来のロシアとの紛争に備えるには不十分であると警告、冷戦時代には欧州の加盟国がGDPの4%を防衛に充てていたことを引き合いに出し、より高いレベルの支出が必要であると強調した。NATOは現在、2030年までにGDP比3%とする新たな目標の引き上げを検討している。
こうしたNATOの動向を踏まえてトランプ次期大統領は、現在検討中の3%目標では不十分であり、5%まで引き上げろと要求したわけだ。
では当の米国はどうなのか。バイデン民主党政権下の2024年度の米国の国防費は約8,420億ドルで、同年のGDP予測は約27兆9,630億ドルなので、GDP比で約3%だ。一方、米議会は2024年12月18日、2025会計年度(2024年10月~2025年9月)の国防権限法案を可決した。この法案によれば、来年度の国防予算は総額8950億ドル(約139兆円)と、過去最高額だ。ウクライナ、中東、そして中国と、世界の脅威に同時に対抗するために米国も国防費を懸命に増やしているわけだ。
●日本に必要な発想の転換
中国、ロシア、北朝鮮という力による現状変更を目指す三つの核武装国家に対峙している日本の防衛費はどういう状況なのか。
2022年12月、岸田文雄政権が安保3文書と共に5年間で約43兆円の防衛費を閣議決定し、防衛力の抜本的強化のため2027年度までに防衛費をGDP比2%(約11兆円)に引き上げる中期目標を設定した。この中期目標を見据えて2024年度の防衛関連予算の合計は約8兆9000億円で、GDP比で約1.6%に当たる。以前の日本に比べれば防衛費は確実に増えているものの、米国やNATOに比べると余りにも少ないと言わざるを得ない。
よってトランプ次期政権は当然のことながら、日本にもこれまで以上の防衛費を要求してくるだろう。
日本では、トランプ政権から言われるので仕方なく防衛費を増やさないといけない、みたいな議論があるが、中国などの脅威に直面しているのは日本であって、米国から言われて防衛費を増やすという発想はおかしい。むしろ日本も米国やNATOと同様にGDP比3%を目指し、日本の防衛力強化だけでなく、台湾やフィリピン、オーストラリアなどに対しても軍事支援をしたいものだ。その金額も2024年のGDPが約597兆円になったことを踏まえれば、3%なら約18兆円となるが、それでも米国の約8分の1だ。
インド太平洋の自由と繁栄を守っていく観点から、日本だけの防衛予算から、積極的平和主義に基づく防衛予算へと大きく発想を変えたいものである。(了)