方向は異なるが、米中両国は揃って戦後の国際秩序の抜本的変革を目指している。令和7(2025)年、世界が大きな変化をよりはっきりした形で体験するのは必然だろう。中華帝国の復活を目指す習近平中国国家主席と、同盟国は米国を頼るのではなく各々が基本的責任(primary responsibility)を果たす強い国であるべきだと主張するトランプ次期米大統領。地殻変動にも似た大変化が生ずる。私たちはそれを恐れることなく、戦後レジームからの脱却に確実につなげていきたい。
戦後80年間、日本は米国製の現行憲法の呪縛を解けず真の独立国たり得なかったが、国際秩序の変化が眼前で進む今を好機として、わが国の進むべき新たな道を打ち立てる勇気を奮い立たせなくてはならない。
●謝罪外交に回帰した岩屋外相
その意味で、石破茂首相の対中急接近を心底危ぶむものだ。孤立を深める中国は、彼らの言う「米国一辺倒」の日本の外交政策を「日米同盟・日中協調」路線に戻させようと画策しており、石破政権は前のめりである。
昨年12月、岩屋毅外相が訪中し、王毅政治局員兼外相らと会談した。安倍晋三元首相が日中関係改善のために提唱した「戦略的互恵関係」は、習近平氏の日本軽視の対外政策もあり、2017年以降、消滅していた。それを岩屋氏は再び日中関係の基盤とする姿勢を強調した。
さらに岩屋氏は王毅氏に「日本は歴史問題で引き続き(日本のアジア侵略をわびた1995年の村山富市首相の)村山談話の明確な立場を堅持し、深い反省と心からの謝罪を表明する」と述べた。訪中前の中国メディアの取材には「わが国は一時期、国策を誤った」と語り、「村山談話と(戦時中の慰安婦の強制連行を事実上認めてわびた1993年の河野洋平官房長官の)河野談話を継承するということか」と問われ、「そうですね。はい」と答えた。
安倍元首相は戦後70年談話で「私たちの子や孫、その先の世代の子供たちに謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」と区切りをつけたが、岩屋氏はそれをいきなり過去の路線に引き戻したのだ。
●中国に取り込まれるな
石破、岩屋両氏は王毅氏の来日をできるだけ早期に実現させたいとする。中国政府が日本との関係改善を急ぐ裏に、中国の環太平洋経済連携協定(TPP)加盟への働きかけがあるとの見方を、国基研企画委員の細川昌彦氏はとる。加盟交渉さえ始められれば、中国は加盟国と個別の交渉に入ることができる。まさに中国の得意とする手法だ。だがTPPに中国を入れることは、中国を経済的に封じるというTPPの本来の戦略目的に反する。米国抜きでTPPをまとめた安倍政権の努力を水泡に帰そうというのか。
米中双方は国際秩序を大きく変えてくる。トランプ氏は日本により大きな責任を果たすよう迫りくる。それこそわが国に「天の時」をもたらすだろう。米中の変化を活用して憲法を改正し、わが国を真の独立国として再生するのだ。
気概を基にした大戦略が必要な今年、石破政権の媚中政策こそ悪手である。(了)