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今週の直言

有元隆志

【第1214回】石破首相は安倍氏に学べ

有元隆志 / 2025.01.14 (火)


国基研企画委員・産経新聞特別記者 有元隆志

 

 石破茂首相は2月前半に訪米し、トランプ次期大統領と初会談する方向で調整している。石破首相は昨年11月に当選したばかりのトランプ氏との会談を模索したが、本欄では「慌てて会う必要はない」と反対した。だが、バイデン大統領が日本製鉄による米鉄鋼大手USスチール買収計画の禁止命令を出したことを覆せるのはトランプ氏である。説得を試みる価値はある。その際、石破首相が参考にすべきは安倍晋三元首相のアプローチだ。

 ●比較嫌がる首相
 複数の政府高官によると、石破首相は日米関係について説明を受ける際、安倍氏の名前が出ると露骨に不快な表情をするそうだ。自民党総裁選で2度安倍氏に敗北した石破首相は安倍氏と比較されるのが嫌なのだろう。石破首相は「ゴルフ外交」を展開した安倍氏とは違うアプローチでトランプ氏に臨むという。首脳によってスタイルが異なるのは当然だが、石破首相が好む理路整然とした主張が通じる相手なのか考えたほうがいい。
 石破首相は1月6日の記者会見で、USスチール買収禁止命令について「なぜ安全保障上の懸念があるのかきちんと述べてもらわないと困る」と批判した。その通りだが、石破首相はトランプ氏に面と向かって言えるのか。

 ●危険察知能力
 政府当局者は、安倍氏がトランプ氏との関係で優れていたのは「危険察知能力だった」と振り返る。同当局者は一例として、2018年2月14日の電話会談を挙げた。
 安倍氏は2月4日の沖縄県名護市長選で、米軍普天間基地(同県宜野湾市)の名護市辺野古への移設反対派現職を新人が破ったことを紹介し、「辺野古で勝ってよかった」と述べた。トランプ氏からは「シンゾー、辺野古って何だ」と問いが戻ってきた。安倍氏はすぐに話題を変えた。
 同当局者は「トランプ氏に名護市への移設を詳しく説明しても『そんなに反対が強いなら米軍がいる必要あるのか』と言い出しかねない。地雷が埋まっていると臨機応変に対応したのが安倍氏の特徴だった」と語る。
 石破首相は安倍・トランプ会談の全資料を読み返して学べばいい。

 ●EUは学んだ
 別の政府当局者によると、欧州連合(EU)の国々からは、なぜ安倍氏がトランプ氏との良好な関係を築けたか尋ねられることが多いという。それを学んだEUは27カ国の中からトランプ氏と相性がいいメローニ伊首相らを前面に押し立てている。それに対し、日本では現在、トランプ氏と首脳会談ができるのは石破首相しかいないのである。いつまでも「過去」にこだわっている時ではない。(了)