日本銀行の植田和男総裁は24日、政策金利を0.25%から0.5%に引き上げたばかりでなく、幾度も追加利上げしていく意向を表明した。背景には米国のトランプ第2次政権発足とともに進行する円安に伴う物価高の抑制がある。
だが、利上げは円安を阻止できるとは限らないばかりか、停滞が続く国内需要を圧迫する。日銀は外国為替相場ではなく、景気重視の金融政策に立ち返るべきだ。
●利上げ続けば景気悪化
植田総裁は利上げ決定後の記者会見で、今後の金融政策について「少しずつ段階的に動いていく」と述べた。さらに、景気を熱くも冷やしもしないという「中立金利」は1~1.25%だとし、利上げの余地が大きいと強調したが、景気実勢軽視が甚だしい。
1990年代後半以降、実質賃金の下落が続き、家計消費は不振が続き、国内需要は供給を下回っている。このため、コスト高で物価は上がっても、需要不足でデフレ圧力は依然として大きい。その状況で利上げ政策を続けるなら、働き盛りの勤労者は変動型住宅ローン金利上昇に苦しみ、銀行借り入れに頼る中小・零細企業の多くは収益を圧迫され、大幅賃上げどころではなくなる。
もとより、植田日銀は円安進行阻止に重点を置き、昨年3月にはマイナス金利を解除し、7月には利上げに踏み切った。2022年3月からは米連邦準備制度理事会(FRB)による大幅利上げが始まった半面で、日銀は0%以下の超低金利を維持していたために、日米間の金利差が大きく開き、円売り投機が盛んになった。
しかし、日銀の小幅利上げでは金利差はほとんど縮まらない。外為市場での円売りは止まらず、次の利上げを催促する始末である。日銀の利上げ前のめりは、利上げ、円安、追加利上げ、景気悪化という連鎖を招きかねない。米国との金利差をはっきりと縮小させるためには、数%幅もの利上げが必要になるが、それでは日本経済はデフレの淵に沈む。
●内需拡大の政策を
これまでの「失われた30年間」では慢性デフレと実質消費の減少を受けて、国内では投資が低迷し、日本のカネが米金融市場など海外に流出してきた。そのプロセスの中で円が売られ、ドルが買われやすい。政府は新NISA(少額投資非課税制度)を普及させようとしているが、家計の多くは同制度を通じて、国内ではなく海外の投資信託に殺到、円安を助長する。内需主導で国民を豊かにしないと、円安は止まらない。植田日銀のみならず、石破茂政権はこのことを共に肝に銘じるべきだ。(了)