公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

今週の直言

有元隆志

【第1218回】大違いのトランプ演説と石破演説

有元隆志 / 2025.01.27 (月)


国基研企画委員・産経新聞特別記者 有元隆志

 

 同じ演説でもこれほど違うのかと思わざるを得なかったのが、20日のトランプ米大統領の就任演説と、24日の石破茂首相の施政方針演説だった。

 ●明確だった大統領のメッセージ
 トランプ氏は不法移民対策の強化を打ち出し、「掘って、掘って、掘りまくれ」との掛け声で、電気自動車(EV)の普及策の撤回を表明し、石油や天然ガスなど化石燃料の生産を増産する方針を表明した。
 筆者は2009年1月のオバマ元大統領の就任演説を取材した。オバマ氏は「どんな嵐が来ようとも耐えよう。我々が試練に立ち向かった時に、旅を終わらせることを拒み、挫けなかったと子孫に伝えられるようにしようではないか」と格調高く宣言した。
 確かにその場は盛り上げたかもしれないが、オバマ政権の8年間が米国の弱体化を招いたとしてトランプ政権が誕生した。再選を目指した2020年の大統領選では敗れたものの、政権を奪還し、初日からバイデン前政権の政策を覆すとのトランプ氏のメッセージは明確である。

 ●抽象的な首相の施政方針
 読売新聞によると、石破首相は公約を次々に実行に移すトランプ大統領を見て「俺もあれぐらいのことを言いたいなあ」と周辺にこぼしたそうだが、最初から「負け犬」でいいのだろうか。
連立与党の自民党と公明党は衆院で220議席と過半数の233議席に13議席足りない。この13という数字をどう見るかだ。石破首相の言動を見ていると、13のビハインドに安住しているかのようだ。野党から議員を引き抜いてでも過半数を目指そうとなぜしないのか。むしろ少数与党だと、決断しなくて済むと思っていないか。
 石破首相は演説で作家の堺屋太一氏が提唱した「楽しい日本」を目指す考えを表明したが、抽象的であり、新味に欠ける。読売新聞は社説で「首相就任から間もなく4カ月。いつまでも評論家のような姿勢では困る」と批判したが、全くその通りであろう。

 ●求められる決断と実行
 菅義偉元首相は官房長官、首相として官邸を経験した感想について「日々、そして分ごとに決断を迫られるのが一議員の時とは違う」と語った。石破氏は首相という仕事を一日でも長くやることで頭がいっぱいとしかみえない。もちろん政権の短命は望ましくないが、首相に求められるのは在任期間の長さよりも、案件について決断し、そして目標に掲げた課題を実行することである。その覚悟がなければ、直ちに退陣してほしい。(了)