1月11日、インドネシアで石破茂首相の語った外交政策に深刻な懸念を抱く。首相は「日本とインドネシアは共に島国だ。米中間でバランスに配慮しながら外交を進めていく点において非常に似ている」と語った。
東南アジア諸国連合(ASEAN)最大の人口と経済規模を有するインドネシアは非同盟中立を外交の基本路線とするが、実際には対中傾斜を強め、パレスチナ自治区ガザでの戦闘でイスラエルを支える米国への不信感を強めている。
そのインドネシアに向かって米中両大国間でバランス外交を展開するのがわが国との共通項だと語った石破氏は、元民主党代表で元首相の鳩山由紀夫氏と同類だ。鳩山氏は東アジア共同体構想を唱え、そこから日本は米中双方と等距離を保つべきだという「日米中正三角形」論も生まれた。鳩山氏には米国がわが国の同盟国だという認識が欠落していた。しかし、石破氏の考えは鳩山氏のそれよりもさらに深刻だ。
●弱体政権に付け入る中国
現在の中国は鳩山政権当時よりはるかに深刻な脅威だ。中国は米国を凌駕して戦後の国際秩序を書き換える意図をもはや隠さない。習近平国家主席の下、共産党独裁が強化され、軍事、経済、思想の全分野で中国国民のみならず世界がその圧力に直面する。日中関係も最悪に近い。福島第一原子力発電所の処理水への不当な非難、日本産農水産物のほぼ全面輸入禁止、日本人学校児童殺傷事件、スパイ容疑での日本人拘束など、一連の事案の責任の大半は中国にある。
そうした中、対中接近を強める石破氏に中国は微笑外交を展開中だ。彼らは1989年の天安門事件当時の成功体験から学んでいることだろう。あの時、世界から制裁を受けた中国は、制裁の輪の一番弱い国、日本を狙い、制裁の輪を打ち砕き孤立から脱した。
再び西側世界と激しく対立している習氏は、政権基盤が脆弱で外交経験に欠ける石破氏、長年の党内野党で政治力量が乏しく、大きな圧力に屈する石破氏の脆弱さを見てとり、搦め取り易いと踏んでいるのだ。
●安倍氏の遺産を崩すな
石破氏はそもそも外交における優先度において根本的な間違いを犯している。日中外相会談はすでに行われ、中国外相の王毅氏は2月にも来日する。その先に習氏の来日がある。が、その前に日米外相会談、日米首脳会談を実現していなければ、対中外交を対米外交に先行させることへの米国の反発と疑念に直面するのは当然だ。岩屋氏が急ぎトランプ大統領就任式に出席し、マルコ・ルビオ新国務長官との会談を模索するのは、そうした米国の疑念を打ち消すためのアリバイづくりではないか。石破氏の2月中の訪米を加速度的に模索しているのも同じ理由ではないか。
石破外交は日本外交の基軸を米国から中国に取り換えたかにも見える。安倍晋三元首相が築いた日本の大戦略を石破氏は百八十度ひっくり返し、取り崩している。国益につながらないこの石破政治を断じて許さないことが自民党の責任であろう。(了)