韓国の尹錫悦大統領支持派は昨年12月31日に大統領への逮捕状が出てから連日、数千から数万人を集めて路上集会と大規模デモを行ってきた。その一部が1月19日未明、勾留令状発付を決めたソウル西部地裁を一時占拠し器物破壊を行った。
尹大統領支持派は白地に赤い文字で「STOP THE STEAL」と書かれた紙のビラを持っている。これは米大統領選でトランプ氏の支持者が掲げた「不正選挙で票を盗むのをやめろ」という意味のスローガンだ。裏側には「CCP OUT」の文字があった。「中国共産党出て行け」という意味だ。尹大統領支持者は韓国で中国共産党が介入した不正選挙があったと信じているのだ。
●妄想にかられた大統領
支持者だけではなく尹大統領本人がそれを信じて戒厳宣布を行ったと明言した。逮捕された1月15日にSNSで長文の「国民への手紙」を発表し、「不正選挙の証拠はあまりにも多い」「不正選挙には国際的な連帯と協力が必要」と書いて、現在国会で多数を占める野党が外国勢力の協力を得て不正選挙で当選したと断定し「戒厳は犯罪ではない。戒厳は国家危機を克服するための大統領の権限行使だ」と強弁した。
しかし、不正選挙の証拠は一つもない。戒厳宣布直後に尹大統領は戒厳軍を中央選挙管理委員会に送り、コンピューターのデータを持ち出そうとした。中国や北朝鮮のハッキングによる不正選挙の証拠を見つけて、現在の国会議員の多くは不正選挙で当選したから正当性がないとして、国会を解散して別の立法機構をつくろうとしていたことが軍首脳らの取り調べで明らかになっている。全くの妄想だ。
韓国の選挙開票は日本と同じく、開票所で与野党の立会人の監視下、手作業で行われ、開票所で地域の選管が当落を決めてそこで公表し、その結果を中央選管のコンピューターに送る。したがって、中央選管のコンピューターに不正選挙の証拠があるはずがない。
12月末から大統領支持者の間で「選管の研修所に宿泊していた90人の中国人ハッカーが戒厳軍に逮捕され、米軍が彼らを取り調べた結果、韓国だけでなく米国の選挙でも不正を行ったことを自白した」というフェイクニュースが急拡散した。最近は「ハッカーらは沖縄の米軍基地に送られた」という内容まで加わっている。尹大統領側弁護士は憲法裁判所弾劾審理でこのニュースを持ち出した。
●混迷する保守陣営
世論調査で与野党の支持が拮抗し、尹大統領弾劾への反対も30%くらいまで増えた。保守派が、このままでは左派の李在明政権ができて、文在寅前政権時代の危機が再現すると考えて結集している。しかし、その保守派の半分は不正選挙陰謀論を信じ、軍を使って李在明氏らを逮捕しようとした尹大統領の戒厳宣布を支持している。
保守派のリーダー趙甲済氏は「李在明氏に反対するためにもまず陰謀論を克服して保守を再建しなければならない。相手が怪物だからと言って、こちらも怪物になってはならない」と語った。(了)