2月7日の日米首脳会談は期待値が低かった分、中身的には成功だった。行き詰った日本製鉄による米鉄鋼大手USスチール買収計画について、トランプ大統領が「買収ではなく多額の投資」と述べ、絶対阻止の方針の修正を示唆するサプライズもあった。石破茂首相が日本の対米投資を1兆ドル(約150兆円)に引き上げると表明したこともトランプ大統領を喜ばせたが、日本製鉄による買収計画と共に、どのように進めるかは今後の課題だ。トランプ政権が日本に高関税をかけてくることも想定されており、元政府高官が言うように「最初で最後の蜜月会談」かもしれない。
●安倍流まねる
会談冒頭、石破首相はトランプ大統領と蜜月関係を築いた安倍晋三元首相に触れ、昨年暮れにトランプ夫妻と面会した安倍氏の妻、昭恵氏を通じて受け取った書籍に「ピース(平和)と書かれてあり非常に感銘を受けた」と語った。
安倍氏の「政敵」だった石破首相だが、トランプ大統領と良好な関係を築くには安倍氏に触れぬわけにいかない。石破首相なりの葛藤もあったと思うが、会談では割り切ってトランプ大統領を何度も持ち上げるなど安倍氏のやり方をまねた。
それに応えるようにトランプ氏は「米国の抑止力、そして能力を使って同盟国を守る。100%守る」と強調した。共同声明でも中国について「東シナ海における力、または威圧によるあらゆる現状変更の試みへの強い反対の意」を表明し、「国際機関への台湾の意味ある参加への支持」も盛り込まれた。「日本側としては、望んだ項目が(共同声明に)入った」(防衛省幹部)。
●フリーハンド
一方で、ウクライナ戦争や、パレスチナ自治区ガザ地区の米国による「所有」案についての言及はなかった。日本側として新たな負担増につながりかねないことを避け「フリーハンドを確保した」(政府筋)ともいえる。言い方を変えれば、今後、トランプ氏がどのような要求を突き付けてくるか分からない。
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設についても、2021年の共同声明では「唯一の解決策」としていたが、「在日米軍再編の着実な実施が極めて重要」となった。米軍再編が不透明ななかで、断定調は避けたともいえる。
少数与党の石破政権だけに約束したことを実現できるか見通しは立っていない。弱いリーダーを嫌うトランプ大統領に対し、石破首相が実行力を示せるかが問われている。(了)