米国と英国が関税交渉で合意した。トランプ米政権による「相互関税」の基本税率10%を堅持しつつ、鉄鋼・アルミニウム、自動車への25%の追加関税については、乗用車への関税を10%に低減する輸入枠を設け、鉄鋼・アルミニウムは無税とした。
石破茂政権は米英合意について聞かれると、米国に高関税の撤廃をあくまでも求めると言う。だがトランプ政権は、英国に対する関税引き下げは例外だと強調している。日本が望む高関税適用除外への道は険しい。
●老練な英外交
米英合意が日本にとってのヒントにならないわけではない。対中国鉄鋼貿易のくだりだ。もとより、英国はロンドン金融市場を中国・香港以外での世界最大の人民元決済の場とするなど、経済面では親中路線で一貫してきた。その英国が4月に中国企業傘下の製鉄会社ブリティッシュ・スティールを英政府の直轄下に置いた。米側は中国の鉄鋼製品の英国経由での安値迂回輸出を阻止するものとして高く評価した。トランプ政権の対中強硬政策に関し、老練な英国は部分的にせよ、いち早く共鳴してうまく対米アピールをしたことになる。
経済、軍事を問わず中国の脅威に直接さらされている点で、日本は英国の比ではない。中国は日米欧の企業を呼び込んで国有企業と合弁させることにより、先端技術や製造ノウハウを取り込み、多くの工業製品の輸出を飛躍的に拡大し、米国の製造業を圧倒するようになった。稼いだ貿易黒字のドルを使って世界の鉱物資源権益を獲得し、ハイテクや兵器に欠かせないレアアース、レアメタルの供給で圧倒的なシェアを拡大してきた。経済の高成長を踏み台に軍事力を拡大し続けている。
歴代の米政権は国際秩序無視の中国の対外膨張策を放置してきたが、2017年に発足したトランプ第1次政権になってようやく対中制裁関税をかけた。第2次トランプ政権は高関税により米製造業の復権を目指すが、それは対中145%関税が物語るように、中国封じ込めを包含している。
●トランプ関税は好機
中国の脅威に日々直面している日本は、トランプ政権の高関税を米国と対中戦略を共有する好機と捉えるべきだ。ところが、石破政権はトランプ高関税を「国難」だとしか見ず、小手先の対応に追われている。主要閣僚は中国との「戦略的互恵関係」に望みを抱き、習近平政権がもくろむ日中韓の自由貿易協定の交渉再開に応じかねない。
石破首相はすっぱりと対中幻想を捨て、日米共通の対中経済戦略案を米側に提示せよ。それこそがトランプ氏の対日高関税の翻意を引き出す前提になる。米英合意の含意はそこにしかないはずだ。(了)