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西岡力

【第1252回】確認できたトランプ政権の拉致解決への意志

西岡力 / 2025.05.12 (月)


国基研企画委員兼研究員・麗澤大学特任教授 西岡力

 

 私は北朝鮮による拉致被害者の支援組織「救う会」会長として、4月29日から5月4日まで、家族会および拉致問題に取り組む国会議員らと一緒に訪米した。トランプ米政権が日本人拉致問題解決への強い意志を持っており、米議会の共和、民主両党議員もそれを支持していることを確認できた。

 ●米議会にも連帯の動き
 ルビオ国務長官がトランプ政権を代表して訪米団と面会することが決まっていたが、直前に大統領に同行してワシントンを離れたため、ランドー副長官が出てきた。副長官は政権としてこの問題に取り組むという姿勢を強調した。国務省はわざわざ同時通訳ブースを準備していた。ウォン大統領筆頭副補佐官(国家安全保障担当)は、拉致問題の即時解決を全面的に支持すると語った。トランプ大統領は2月の石破茂首相との会談で、北朝鮮の金正恩総書記との首脳会談に意欲を見せ、それが実現すれば日本人拉致問題を取り上げると約束したが、その姿勢が政権幹部に共有されていることが分かった。
 議会でも拉致問題への取り組みが進んでいた。4月4日には超党派の下院議員17人が大統領に対し、日本人拉致被害者の帰還に向けた政策を優先するよう求める書簡を送った。4月29日には下院で、30日には上院で拉致問題解決を求める決議案がそれぞれ上程された。訪米団は共和、民主両党の関係議員10人に面会し、親の世代の家族会メンバーが1人になってしまった現状を説明した。
 昨年の訪米では、核ミサイル問題と切り離して拉致問題を先に進めることへの容認を米政府、議会に求めた。バイデン政権(当時)が北朝鮮核問題を事実上放置していた中、人道支援を誘い水に被害者を取り戻そうとする岸田文雄政権(同)の戦略に沿った要請だった。
 今年は、トランプ政権が行おうとしている核ミサイル問題での米朝交渉で拉致問題も取り上げてもらい、一緒に解決することを求めた。トランプ大統領は第1次政権時に、金正恩氏との2回の首脳会談で日本人拉致被害者帰還実現を迫った。「核ミサイルを廃棄するなら北朝鮮は豊かになれる。米国は経済支援をしないが日本が大規模な経済支援を準備している。日本からの支援を得るためには拉致問題解決が不可欠だ」と説得した。金正恩氏は日朝間に拉致問題があることを認め、安倍晋三首相(同)に会う用意があると答えている。

 ●水面下で続く米朝接触
 核問題をめぐり米朝首脳会談が決裂したので安倍首相訪朝は実現しなかったが、トランプ大統領は第2次政権でも同じアプローチを準備している。そこで私たちは「日本の支援を交渉のカードに使うことは賛成だが、それには親の世代の被害者家族存命中の全被害者即時一括帰国という絶対条件がある」と伝えた。
 米朝両国は水面下で接触を続けているが、北朝鮮がロシアへの大量の砲弾・ミサイル提供と戦闘部隊派遣でウクライナ戦争停戦を妨げている間、表立った米朝交渉は難しいという話をワシントンの専門家から聞いた。(了)