公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

有元隆志

【第1253回】皇位安定継承を破壊する読売の提言

有元隆志 / 2025.05.19 (月)


国基研企画委員・産経新聞特別記者 有元隆志

 

 「『安定的な皇位継承の確保』をうたいながら、議論集約をぶち壊そうとしているのではないか」。読売新聞社が15日に発表した皇位継承に向けた提言を読んだある政府高官の感想である。安定的な皇位継承や皇族数確保を図る法案をめぐって、令和4年1月提出の政府の有識者会議が示した皇統に属する男系男子の養子縁組による皇室復帰案と、女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持する案を与野党が議論中で、今国会中での成立を目指そうとしているさなかに突如、出てきたからだ。
 政府案をめぐっては自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党、有志の会など主要8党・会派が賛成している。読売新聞には皇位継承問題を政争の具にしないという良識はないのか。

 ●唐突な女系天皇容認
 提言は、皇族女子が結婚後も皇室に残り当主となることを可能にする女性宮家の創設と、女性宮家の夫や子供への皇族の身分付与を主張する一方で、旧宮家の男系男子の皇族復帰には疑問を呈している。さらには女性天皇に加え、母方のみが天皇の血を引く女系天皇の可能性も視野に入れた制度改革を提案している。
 政府報告書が「女性皇族の婚姻後の皇族身分保持」を示しつつ、歴史的に先例のない女系天皇につながりかねないとの懸念から非皇族の夫、子まで皇族とする「女性宮家」は提案しなかったことを読売新聞社はどう考えているのか。非皇族の夫、子の皇族化は絶対にあってはならない。
 読売新聞の記事によると、「提言は、編集局と論説委員会などの記者が専門家らへの取材や勉強会を重ねて策定した」となっている。
 例えば、今上天皇の直系のご先祖にあたる光格天皇(119代)は先代の後桃園天皇(118代)から見て、曾祖父の弟の孫にあたる。後桃園天皇に男系が続かないので、閑院宮家から光格天皇が即位した。このように皇室が皇位継承の危機をいかに乗り切ってきたかを把握して、提言をまとめたとはとても思えない。
 旧皇族の竹田家出身で明治天皇の玄孫やしゃごにあたる作家、竹田恒泰氏は産経新聞のインタビューに対し「『皇統の存続を最優先に』としながら、女系天皇を容認するような読売新聞社の提言は、皇統の存続につながらない」と批判した。

 ●天皇の範囲を広げるのか
 読売新聞は「真実を追求する公正な報道」を信条に掲げてきた。台湾有事を想定した軍民両用艦の建造をめぐる衛星写真分析では読売新聞と公益財団法人国家基本問題研究所が協力して分析を行ったが、事実を突き止めようとする読売新聞記者たちの真摯な姿勢に感銘を受けた。だが、皇位継承報道は例外のようだ。読売新聞は竹田氏が言うように「歴史的に天皇になれない人にまで天皇の範囲を広げてもいいのではないか」と言おうとしているように見える。それは安定的な皇位継承とは呼ばない。(了)