公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

平野聡

【第1285回】日本に屈服迫る中国の軍事力誇示

平野聡 / 2025.09.11 (木)


東京大学大学院教授 平野聡

 

 中国は9月3日の軍事パレードに合わせ、「中国が世界反ファシズム戦争の東部戦線を戦った」こと、そして「(1936年の)西安事変で第2次国共合作を実現した中国共産党こそ抗日戦争の中心だった」ことを、歴史的事実とは無関係に宣伝した。それは経済が低迷する中で政権の正統性を高めるためだけではない。今こそ中国の立場で日中間の問題を根本的に解決し、東アジアの国際秩序を中国が決めるという意図を示したものである。

 ●「世界平和の敵」と宣伝
 中国は既に尖閣問題をめぐり、「日本は、反ファシズム戦争として戦われた第2次大戦後の国際秩序の下で、中国の懐に戻った台湾の一部分であるはずの釣魚島を不法占拠し続けている。ゆえに、日本は戦後の国際秩序を破壊する世界平和の敵である」という宣伝を繰り返してきた。
 とりわけ2012年に中国は「釣魚島白書」を発表し、彼らが列挙した歴史書の文脈を無視して「古来中国が釣魚島を管理した」と主張し、如何に中国こそ歴史の正義を代表しているかを強調した。史実を改変し操作して世論を圧倒し「話語権」(自らの主張を相手に受け容れさせる権力)を握ろうとするのは、中国共産党の常套手段である。
 ゆえに、中国が建国記念日に当たる10月1日の国慶節ではなく「抗日戦争勝利80周年」のタイミングで最新鋭の軍事力の誇示にこだわったのも、単に自国民を満足させて米国や台湾を牽制するためだけでなく、何よりも日本に見せたかったのであろう。
 中国共産党機関紙人民日報系の環球時報や様々なネット言説(中国で政治的発言が削除されないことは、中国共産党の暗黙の了承を意味する)に照らして言えば、中国は「軍国主義と台湾問題で悔い改めない」日本を不安に陥れて屈服させ、尖閣諸島を放棄させ、今度こそ日本人に「中国の発展を心から評価し、中国中心の西太平洋秩序に従うことで初めて日本の真の繁栄と平和がもたらされる」と思わせることで、台湾問題の最終解決ならびに米国との対峙を有利に運ぼうと考えているのであろう。

 ●超党派で危機意識を
 習近平体制下の中国では既に、長年必ずしも中国共産党の価値観を共有しなかった少数民族や香港に対し、「あらゆる物事が中国文明の恩恵と『中華民族共同体』の協力の下で成り立っており、中国共産党がその中心にいる」ことを信じさせるという意味の「中国化」が断行されている。そして、その基準から外れると見なされた人々が厳罰に処せられ、労働改造の対象とされた。
このような傾向に照らし、中国の「無限の協力」相手であるロシアがウクライナに対して振るった暴力や、少数民族や香港に対する苛酷な政治と同じことを、中国が日本に対して行う可能性は否定出来ない。
 現在、日本国内の政局は至って混沌としているが、だからこそ、歴史を操作して戦後日本の平和な発展を侮辱し屈服を迫る中国の発想をめぐり、党派を超えた危機意識が広く共有される必要がある。開かれた国際秩序を保とうとする国々との協力によって日本の独立と自由を担保することは、ますます喫緊の課題である。(了)