公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

櫻井よしこ

【第1353回】首相は中国抑止を米大統領に説け

櫻井よしこ / 2026.03.09 (月)


国基研理事長 櫻井よしこ

 

 米国とイスラエルのイランへの軍事攻撃はイランの核開発を当面阻止した。イランは、イスラエルにとどまらず湾岸地域のスンニ派アラブ諸国を攻撃し、それまで中立を保とうとしていた湾岸諸国は態度を一転させ、米国と共同でイランへの非難声明を発表した。中東の勢力図は大きく変わっていくと思われる。
 2024年にイスラエルのネタニヤフ首相が米国の上下両院合同会議で語ったように、イスラエルとアラブ諸国の関係を正常化するアブラハム合意がその精神を更に発展させたアブラハム同盟に至る可能性もあり、中東においてイスラエルと米国の影響力が確実に強まるだろう。

 ●対イラン戦の長期化は愚策
 ここに至る道筋として、わが国は三つの主張を国際社会に発信していくべきだ。第一は米国への助言である。現在の国際秩序において米国の直面する最大の戦略課題は、中国との長期的な大国間競争である。米国の国家防衛戦略(NDS)はインド太平洋地域における抑止力の維持を西半球の安全保障に次ぐ優先課題としている。台湾海峡及び東シナ海の安定はわが国の安全保障に直結する。中東における軍事作戦が対中抑止能力を損なうことのないよう、戦略的な資源管理の必要性を米国と共有することが重要だ。
 精密兵器の消耗はとりわけ懸念される。巡航ミサイル、精密誘導弾などの大規模使用はインド太平洋における抑止力の信頼性に影響を及ぼす。仮に米軍がイランとの地上戦に投入される場合、アフガニスタンやイラク戦争の経験が示すように長期的に戦略資源が消耗される。このような状況は中国にとって戦略的好機であり、最も歓迎するところだろう。
 イランの核開発阻止と中東の安定が国際社会にとって重要事であるのはそのとおりだ。しかし、米国の戦略的重心がインド太平洋にある現実も忘れてはならない。中東における軍事行動では、作戦の規模と期間を慎重に管理し、対中抑止力を損なわない範囲にとどめることが求められる。3月19日に予定される日米首脳会談で、高市早苗首相はこの戦略認識をトランプ氏に語り、改めて米国と共有することが大事である。

 ●原子力平和利用で支援惜しむな
 高市首相は「イランの行動を非難する」と語り、周辺国の民間施設や外交施設に対するイランの攻撃に反対するわが国の立場を明確にした。その上で首相は、イランが民主的な国家として再生を図るときわが国はあらゆる助力を惜しまないこと、とりわけ原子力の平和利用に関して、国際社会の信任を得ているわが国の経験を以て、イランを支援していく決意を発信することが重要だ。
 最後に、高市首相はわが国が普通の民主主義国になること、即ち自民党の党是である憲法改正を実現し、自らの力で自国を守る国となり、わが国の国柄に基づいてアジア及び全世界に貢献する決意を表明する時だ。眼前のあらゆる危機に米国と共に対処するために国防力を大幅に増強する具体策も示す時であろう。(了)