3月19日の日米首脳会談で、高市早苗首相は拉致問題を解決するため北朝鮮の金正恩国務委員長との会談に強い意欲を示し、トランプ大統領からそのプロセスで協力するとの約束を得た。すると23日、北朝鮮の事実上のナンバー2である金与正労働党部長が日朝首脳会談に否定的な談話を出した。しかし、この談話は日本との交渉を拒否するものでなく、交渉へ向けた駆け引きとみるべきだ。
●日朝首脳会談の完全拒否避ける
談話は、日朝首脳会談は日本が願うからといって実現するものではないと述べ、会談の条件として「われわれが認めたこともない自分らの一方的議題の解決」を求めないことと、「時代錯誤の慣行、習性と決別する決心」をすることを挙げた。また、「今の日本はそれとは正反対の方向へ遠ざかっている」と指摘して、「徹底的に個人的な立場ではあるが、私は日本の首相が平壌に来る光景を見たくない」と結論づけた。
2024年3月の金与正氏談話では、当時の岸田文雄政権が拉致は未解決との立場に立っているから交渉を完全に拒否すると断言した。しかし今回は、①拉致という表現を使っていない②日朝首脳会談に条件を付けても首脳会談自体を完全に拒否していない③首相訪朝を「個人的な立場」で「見たくない」という感情表現にとどめている―という違いがある。
2月28日の米・イスラエルによるイラン首脳部への軍事攻撃は金正恩政権に強い衝撃を与えた。水面下で進められていた米朝首脳会談のための秘密接触もストップし、トランプ政権が北朝鮮首脳部を攻撃する意図を持っているのかどうかについて、金与正氏が責任者になって必死で情報収集を続けたという。
3月22~23日に開かれた北朝鮮の最高人民会議(国会に相当)で、反体制勢力から政権を守るための政治警察であった国家保衛省が、内外の情報を収集・分析することに特化した国家情報局に改編された。最高首脳部を軍事攻撃から守るためには、米国などの情報を集めることと、国内の内通者を根絶することが必要とされた結果だという。
●トランプ氏も米朝会談に前向き
トランプ大統領はイラン攻撃開始後の3月13日、ホワイトハウスで韓国の金民錫首相と会い、「(金正恩委員長に)会うのは本当に良いことだ。 しかし、それが今回中国に行く時期かもしれないが、そうではないかもしれず、その後かもしれない」と語った。5月中旬に延期された米中首脳会談の時期にも米朝首脳会談を持つ意思があることを表明したのだ。
北朝鮮は、米朝首脳会談を断れば軍事攻撃があり得ると判断し、会談準備を再開した可能性が高い。米朝首脳会談における核問題討議では日本からの経済支援が取引材料となるから、米朝交渉が妥結すれば高市首相の訪朝が実現するはずだ。今回の金与正談話はそのことを念頭に置いた駆け引きと見るべきだ。(了)





