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岩田清文

【第1371回】9条2項削除こそ時代が求める憲法改正だ

岩田清文 / 2026.05.25 (月)


国基研企画委員・元陸上幕僚長 岩田清文

 

 安倍晋三政権以来、自民党の憲法改正論議の中心は「自衛隊の憲法明記」であった。合憲・違憲論争が展開される中で任務に就いてきた自衛隊の法的安定性を憲法への明記によって確保するという意義は認める。しかし、今の安全保障環境は安倍政権当時と激変している。

 ●自衛隊明記で抑止力は生まれない
 ロシアのウクライナ侵略は、力による現状変更が欧州で現実のものとなる時代に入ったことを示した。イラン戦争は、軍事力だけでは決着がつかず、ホルムズ海峡の「武器化」など国家総力戦となる現実を突きつけた。加えて中国、ロシア、北朝鮮、イランが事実上の「権威主義連合」として連動し、既存の国際秩序に同時かつ多面的に挑戦している。トランプ米大統領が北大西洋条約機構(NATO)離脱すら口にする時代に、「最後は必ず米国が守ってくれる」という戦後日本の発想はもはや通用しない。
 こうした情勢の中で、台湾有事が現実味を増している。2027年以降に起きる可能性が指摘され、起きれば日本有事に直結する。この危機を抑止するために必要なのは、日米安全保障条約を改定し、明確に相互防衛義務を規定することである。この改定は、他国との関わり合いに消極的になり始めている米国を、同盟軽視に向かわせないことにもつながる。
 しかし、戦力の不保持を定める9条2項が存在する限り、日本は対等な相互防衛の担い手として同盟国と肩を並べることができない。自衛隊を憲法に明記するだけでは、この本質的問題は解消されない。自衛隊明記はその存在を憲法上追認する意義を持つにとどまり、抑止力の強化にはつながらないのである。

 ●自衛官の正当な処遇は国の責任
 また、自衛隊が軍隊として正式に位置づけられない限り、自衛官は軍人ではなく特別職の国家公務員として国土防衛の戦場に立つことを強いられる。「国を守るために命を懸けよ」と命じながら、国家がその犠牲に全面的に責任を負う制度を持たないことは根本的な矛盾である。戦死・戦傷への補償制度は未整備のままであり、先進諸国が持つ軍法会議の設置に至っては議論すら起きていない。真の憲法改正とは、こうした矛盾を解消し、自衛隊を国内法上も軍隊として位置づけ、軍人に求められる犠牲に対して国家が名誉を与え、補償を担うことを明確にするものでなければならない。
 高市早苗政権は発足に際し、「国論を二分する政策については国民の意思を問う」と宣言した。ならば憲法9条改正こそ、正面から取り組むべき根本的重要課題である。連立与党だった公明党に配慮した自衛隊明記案に今も拘泥する必要があるのか疑問である。戦後最悪の安全保障環境に正面から向き合い、9条2項の削除に向けて努力を集中すべきである。「力のない平和」は存在しない。その現実を直視し、日本の覚悟を憲法に刻むべき時が来ている。(了)