北京で開催された米中首脳会談は、短期的な米国の対中経済利益と長期的な中国の対米優位性をめぐる異なる時間軸のせめぎ合いだった。トランプ米大統領には、11月の中間選挙を控えて、経済的な成果を引き出そうとの下心が明らかだった。他方の習近平中国国家主席は、中国の地政学的な台頭を妨げられない戦略的な安定を獲得しようとした。首脳会談では、冒頭から習氏による台湾に関する脅迫的な発言が飛び出し、大仰な歓迎式典とのギャップを印象付けた。
●トランプ氏の弱みを突いた習氏
習氏のトランプ氏へのメッセージは明確だった。中国にとって台湾の扱いが米中関係のキモであり、その処理を誤れば、「きわめて危険な状況を引き起こしかねない」と述べたことに尽きる。とりわけ習氏が「トゥキディデスのわな」に言及して中国の野心に干渉しないよう求めたことは、この会談の方向性を決定づけた。古代ギリシャ史からの警鐘は、台頭する大国と既存の覇権国との避けられない戦争を意味しており、習氏が米国に戦争のリスクを冒さないようクギを刺したのだ。
これにより、トランプ氏が描いた経済取引中心の「史上最高のサミット」願望は打ち砕かれた。会談後の米側の発表が、あえて台湾に言及せず、中国市場へのアクセス、対米投資など経済問題を上位に置き、ホルムズ海峡の開放、イラン核問題にとどめたのは、台湾問題での判断の先送りを図りたかったのか。
しかし中国側は、トランプ氏が多くの弱点を抱えたまま北京入りした戦略的好機を逃さなかった。米国はイラン戦争によって武器弾薬が不足し、国内の燃料価格が高騰し、トランプ氏の国内支持率は急落している。さらに、トランプ氏が中国に課した高関税は、レアアース(希土類)の対米輸出規制で跳ね返されており、この関税を課す権限すら複数の米裁判所判決で否定されている。そして最大の強みである米欧同盟の亀裂は広がるばかりだ。米国が自由世界の統率者であることを放棄している現状は、習氏には地政学的な変化を求めるチャンスと映るはずだ。
●9月再会談まで模様眺め
台湾をめぐる諸課題を、知り得る限りはトランプ氏が取引の対象としなかったのは救いだった。それをすれば日本など同盟国の信頼を失うし、対中強硬派の多い米議会の反発を誘う。習氏が「台湾を防衛するのか」と迫ったのに対し、曖昧な発言に終始していたのはそのためだろう。
従って習氏は、トランプ氏に持たせるお土産も、当初500機だったボーイング機買い付け予定を200機にとどめるなど、経済カードを小出しに切った。次にセットされた9月の習氏訪米までの間、米側が台湾への武器売却の承認を棚上げするか否か、イラン原油を購入する中国企業への制裁を解除するか否かを見極める構えだ。
高市早苗首相が帰国途中のトランプ氏から、電話会談で詳細を聞いた事実は重い。日本は東シナ海と台湾海峡、そして朝鮮半島で軍事的脅威にさらされており、トランプ政権が中国を「G2」として並び立たせ、同盟国を軽視しながら秩序を仕切る世界は危ういからだ。(了)




