公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

今週の直言

細川昌彦

【第1382回】中国の邦人拘束の背景にモーター技術

細川昌彦 / 2026.06.29 (月)


国基研企画委員・明星大学教授・内閣官房参与 細川昌彦

 

 中国で先月、日本人2人が当局に拘束されたことが24日明らかになった。2人は富士電機の社員で、レアアース(希土類)製品の輸出に関して「国家輸出入禁止貨物密輸罪」違反容疑をかけられたと見られている。

 ●反スパイ法事件とは異なる狙い
 日本の中国専門家の中には、今回の拘束が反スパイ法ではなく、上記密輸罪を適用しているのを中国側の〝手加減〟と見る向きもあるが、それは甚だ疑問だ。逆に中国による対日圧力のステージが上がったとする見方もある。先般の主要7か国(G7)首脳会議でレアアースを巡り中国に対抗する協力を主導した日本への牽制もあろう。そうした政治的駆け引きの要因も否定しないが、直接的な狙いは別にあると見るべきだろう。
 2023年3月、アステラス製薬社員が反スパイ法違反の容疑で拘束された。容疑事実は不明なままだ。反スパイ法違反のほとんどは容疑事実が明らかにされない。しかし今回は、中国で部分的に組み立てたものを日本に輸出し、それを日本でばらして磁石を取り出して使っていた容疑だと、中国側からのリーク情報が伝えられている。これはアステラス案件とは同列に論じられないことを示唆する。

 ●レアアース規制で新たな揺さぶり
 中国によるレアアース規制を巡って、焦点はかつての磁石からモーターに移っている。
 中国は昨年4月、重レアアースの輸出規制を始めたが、とりわけ対日輸出は急減し、それらを添加した高性能磁石も対日輸出は激減している。その結果、こうした磁石を使ったモーターの生産は深刻な事態に直面している。
中でも様々な製造機械に組み込まれ、高精度に駆動するサーボモーターが焦点だ。日本企業が圧倒的な強みを持ち、日本の工作機械、ロボットなどの競争力の源泉だ。
 メーカーでは中国製磁石を調達するために苦肉の策として、サーボモーター組み立ての一部中間工程を中国で行う動きがある。これは「中国アッシー(アセンブリー〈組み立て〉の略)」と呼ばれ、富士電機もそうしたメーカーの一つだ。
 2010年の尖閣諸島を巡る問題で中国がレアアースの対日輸出規制をした際、日本の磁石メーカーはレアアース確保のために中国での現地生産を進めた。その結果、製造技術が中国メーカーに渡り、その後の中国メーカー台頭につながった。今回も中国製磁石の供給で、もう一段下流であるモーター業界が揺さぶられている。磁石の二の舞にならないかが懸念される。
 中国はレアアースから磁石、そしてモーター、さらに工作機械・ロボットといった、サプライチェーンの上流から下流まで「自国完結させる戦略」を展開しているからだ。

 ●日本企業は中国での組み立てをやめよ
 組み立ての中間工程といえども、さまざまな製造ノウハウが含まれ、技術流出のリスクもある。他方で中国はこうした動きを「規制逃れ」として牽制する思惑も見え隠れする。
 そうした中で今回の拘束事件が起こったことを深刻に受け止めるべきだ。日本企業は早急に「中国アッシー」の中止を検討すべく、政府は厳しく対応すべきだ。(了)