国基研企画委員 冨山泰
台頭した中国の軍事的圧力にさらされるアジアの二大民主主義国、日本とインドの安全保障分野での協力拡大を話し合う国際シンポジウムが4日、東京で開かれる。インド側には日本の協力への期待が強いが、現状では日本にできることはほとんどなく、軍事的責任を果たすことに目をつぶってきた日本の戦後体制の問題点をえぐり出す機会になりそうだ。
安保協力に拡大の余地
シンポジウムは国家基本問題研究所(国基研)とインドのシンクタンク、ビベカナンダ国際財団(VIF)により開催される。両研究所は日印安保協力の共同研究で合意し、昨年来、外部の専門家も交えて研究活動を進めてきたが、その中間発表の場として、公開シンポジウムを設けた。VIFはインドの情報機関、軍人、外交官出身者が組織の中枢を占める新興の研究所で、安保問題や戦略研究に力を入れている。
シンポジウムを前に、VIFから50ページ超の詳細なペーパーが提出され、そこでは国際情勢一般や中国の軍事的進出に関する分析が示されるととともに、防衛技術やサイバー防衛など特定の分野について、日本に望む協力内容が列挙された。しかし、ペーパーは、日本には憲法上の制約や、武器輸出3原則など政策上の自己規制があって、十分な日印協力ができないことに特に言及しており、日本の戦後体制からの脱却を事実上強く望む内容になっている。
日本とインドは中国の台頭をけん制することで利益が一致し、民主主義の価値観を共有し、歴史的にも親密な関係を維持しており、安保分野で協力を拡大する余地は大きい。しかし、日本が憲法改正を含め戦後体制を根本的に見直さない限り、安保協力に限界があることは、日本側の研究参加者の間でも意見が一致している。
米国・ロシア観に違いも
共同研究では、安倍晋三元首相とプルノ・サングマ元下院議長という日印の有力政治家が「共同代表」に就任した。安倍元首相はシンポジウムに先駆けて、VIFのアジット・ドバル所長(元インド情報局長官)らインド側代表団を激励し、シンポジウムの冒頭ではあいさつのスピーチを予定している。共同研究は今回の中間発表後、来年春をめどに最終報告をまとめる。両国の政治家の支援で、最終報告が打ち出す政策提言に重みが増すことは間違いない。
日印間では、安保問題で肝心の米国のとらえ方が微妙に異なる。インド側はもともと米国を信用せず、米中結託の可能性を本気で心配し、そこにインドと日本が連携する意味を見いだしている。日本側は、安保分野では日米同盟を中核に据える以外になく、それにインドの支援を組み込むことを考える。また、ロシアへの親近感も日印で異なる。そうした違いを乗り越えて、どのような最終報告をまとめられるか楽しみである。(了)
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第144回:日印シンポで浮かび出る戦後体制の限界(冨山泰)