国基研副理事長 田久保忠衛
国家基本問題研究所とインドのビベカナンダ国際財団(VIF)の共同研究の一環として、6月3~4日に東京で実施した討議の内容は、櫻井よしこ理事長が週刊新潮6月14日号で紹介したとおりである。ここでは、私が気付いた日印間の対中戦略をめぐる論点二つについて所感を述べる。
米の「軸足」移転を印も認識
一つは、中国を牽制できる唯一の大国である米国をどう考えるかだ。基地を提供する代わりに安全保障をお願いするとのいわゆる安保体制にどっぷりつかってきた日本にとって、米国の対中政策がどうなるかは運命を左右する。米国の対中姿勢にはここ数年来厳しいものがあるので、日米関係は「普天間」問題が未解決にもかかわらず、特に亀裂は生じていない。ところがネール首相の非同盟外交の伝統のあるインドは、簡単に米国との距離を詰めるわけにはいかない。
ただ、ワシントンが進めるアジアへの「軸足」(pivot)移転によって、インド洋から南シナ海、東シナ海、黄海にわたる広範囲な米国のグランドデザインが現実になりつつあることは、インド側もある程度心得ているようだ。
米国は日本、韓国、フィリピン、タイ、豪州の5同盟国に、インド、ベトナム、ミャンマーなどを加えた対中戦略の構築を着々と進めている。豪州のダーウィンには200人の米海兵隊が配置され、豪インド洋艦隊基地のパース南部にあるスターリングや、インドネシアのジャワ島南のココス島も米海軍が基地として使用する交渉が進んでいるらしい。東南アジア諸国連合(ASEAN)各国や日本などと組んで「アジア協調」(Asian Concert)体制を築こうと現にVIFは提案している。
ロシア取り込みに「四島」の壁
第二は、この協調体制にロシアも加えないかとのインド側の誘いだ。旧ソ連の時代から今日に至るインド外交には、親ロシアの心棒が貫かれているのかもしれない。しかし、日本はロシアとの間に北方四島問題を抱えている。頭の中の単純な計算で、ロシアより手ごわい中国に対抗するためには領土問題を一時的にせよ棚上げしてロシアと関係を深めるとのアイデアも生まれて不思議ではない。が、マイナス面の大きさを忘れては大変だ。
北方四島を棚上げした日本は外交上の大きなテコを失う結果にならないか。ロシアや中国だけでなく、竹島を不法占拠している韓国にもなめられる。ロシアと結ぶより日本との関係強化が得策だとインドに悟らせる国に日本を早く変えたいと思う。(了)
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第145回:「アジア協調」体制で中国を牽制しよう(田久保忠衛)