公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

田久保忠衛

【第178回】 米中間で日本も覚悟の時期に

田久保忠衛 / 2013.02.04 (月)


 国基研副理事長 田久保忠衛

 

 旧同盟通信の上海支局長時代に、蒋介石が張学良に監禁された西安事件の世界的大スクープをものにし、戦後は初代の国際文化会館理事長になった松本重治氏が「日中関係は日米関係なのだ」と言っていたのを思い出す。戦前から現在に至るまで、日米中3カ国には一貫して政治力学が働いている。中国だけ、米国だけ、日本だけを観察していては、風がどの方向に吹いているのか見当もつかないだろう。

 ●中国は体制崩壊の危機
 日本のシンクタンクとして独自の活動を続けてきた国家基本問題研究所に関心を抱いて訪ねてきてくれた中国の珍しい方がいる。体制を批判した「08憲章」の有力メンバーの1人である崔衛平女史だ。権力を振りかざしてきた中国当局に対して、貧困層の農民ではなく、中間層の間に批判が高まっていると述べた。国の管理がどんどん緩んできて、秩序が乱れ始め、崩壊の一歩手前だとの観測すら出ているともいう。判で押したように同じ意見を述べている中国政府関係者とは異なる角度から、崔女史はちらり本音を言ったと思う。これをきっかけに中国を民主化に向かって軟着陸させたいと努力している同女史には、声援を送りたいと思う。

 ●日本の責任分担は不可避
 2期目に入った米国のオバマ政権は軸足をアジアに置く「ピボット(軸足)政策」を中国に対して続けると考えてよかろうが、1期目との違いが早くも現れた。国務、国防、財務長官や、CIA(中央情報局)長官らに大統領との関係が近い人々を集め、日本でひところ言われた「お友達内閣」になっている。国務長官に起用されたケリー前上院外交委員長は、ベトナム戦従軍後に反戦運動に従事した経験を持つ。国防長官の指名を行けたヘーゲル元共和党上院議員は米軍の世界的な展開に批判的で、「新長官に任命されれば、主要な任務は国防費の削減だ」(ワシントン・ポスト紙)と言われている。政策全体が内向きにならざるを得ない。
 理由の一つは、10年以上にわたるアフガニスタンとイラクにおける戦いの反動で、米国民の多くが、紛争に巻き込まれたり戦いの主導権を握ったりすることに慎重になっていることだ。二つ目は、オバマ大統領の医療保険支出など社会保障への意欲が、ひどい財政をさらに悪化させ、そのしわ寄せが国防費に集中しようとしていることだ。指導国家としての地位を維持しながら国内からの二つの要請に応えるとしたら、同盟国に責任分担を求めるしかない。日本も覚悟しなければならない。(了)