公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

今週の直言

田久保忠衛

【第236回】同盟と相反する「新型大国関係」

田久保忠衛 / 2014.03.03 (月)


国基研副理事長 田久保忠衛

 

 米オバマ政権のアジア政策をめぐる同盟諸国の不安を代弁したのは、米保守系シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)のマイケル・オースリン氏だ。2月3日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙に「ワシントンにとって現実の危険は、自身が張り子の虎になったように見えてしまうことだ。オバマ政権はアジアにおける目標が何かを全く明らかにしてこなかった。それは民主主義、自由主義を広めることなのだろうか。中国の人権侵害に正面から立ち向かわず、他の民主主義諸国と統一行動を取らないことから見て、それが目標の上位にあるとは思えない」と書いた。

 ●はっきりしてきた米のアジア政策
 しかし、オバマ政権のアジア政策ははっきりしてきたと思う。アジアの同盟諸国に対しては同盟関係の強化を引き続き説き、同時にアジアのトラブルメーカーである中国とは「新型大国関係」をがっちり固めようとしている。この二つが矛盾しないかどうか、日本はこれから目を凝らして観察しなければならない。
 オバマ大統領は4月に日本、韓国、フィリピン、マレーシアの4カ国を訪れる。日本の報道では大統領が歴史認識問題でこじれている日韓関係を調整するのだという解説がもっぱらだが、4カ国が程度の差はあるにせよ、いずれも中国との間で領土問題を抱えている国々である点に注目する必要があろう。同盟・友好関係の強化をこの4カ国で訴え、団結を中国に向かって誇示することが重要なのは指摘するまでもない。
 一方、中国との間では、習近平国家主席が副主席時代の2012年に訪米先のワシントンで行った演説に登場する「新型大国関係」の構築が着々と進められている。習主席は昨年6月に米カリフォルニア州で開かれたオバマ大統領との首脳会談でこの構想を改めて提示し、ライス大統領補佐官(国家安全保障担当)は昨年11月の演説で「新型大国関係を機能させる」とぶった。

 ●尖閣問題への対応に不安
 新型大国関係とは、はっきり言えば米中が互いの利益を尊重し合おうということに尽きるのだが、問題は中国側の構想に、尊重すべき対象として「核心的利益」が含まれている点だ。昨年、中国は勝手に尖閣諸島を核心的利益であると決めた。これに米国はどのように応じるのか。問題を棚上げにして日本の不満を抑えるのか。
 同盟強化と新型大国関係の構築は矛盾する。同盟の目標には同盟諸国共通の敵が存在しなければならない。同盟の要である米国が中国と不戦の誓いを交わせば、同盟の価値は消えてなくなってしまう。
 一部マスコミの安倍(晋三首相)叩きは、鼻先にとまったハエばかり見ているのと同じだ。そんなことより、日本が米中の狭間で容易ならざる危機にさらされている事態に思いを致したらどうか。(了)