米大統領が主要閣僚をホワイトハウスに招集し、増税を含む経済政策について日本の首相ブレーンから教えを請い、その姿をメディアに大きく報じさせるなどというのは、およそあり得ない光景だろう。ところが日本ではそうではない。
5月19日、オバマ政権下で経済諮問委員長を務めたクリスティーナ・ローマー教授(カリフォルニア大学バークレー校)の夫妻が首相官邸に招かれ、安倍晋三首相と主要閣僚に意見を述べる様子がニュース画面に大きく映し出された。
●日本は外国の権威に弱い国?
この「国際金融経済分析会合」は計7回を数えたが、内容はすべて非公開。第3回のゲストでノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマン教授(ニューヨーク市立大学)が討議内容を外部に漏らして以来、情報統制はより強化されたようだ。
19日夜のNHKニュースは、「首相、経済学者らとの意見交換終え、消費増税判断へ」との見出しを付けた。もちろん官邸側は、あくまで26~27日に三重県で開かれる主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に向けた純粋な勉強会であって、消費税率の引き上げ判断とは関係ないと言うだろう。が、勉強なら関係閣僚が公務の合間に有識者を適宜呼んで私的に行えばよい。あるいは、海外に官僚を派遣して聴き取らせ、報告を受ければよいだけのことだ。
非公開のため、広く議論を喚起する効用もないこの会合は、海外有識者の権威を借りて世論を誘導する仕組みと思われても仕方がない。首相以下、主要閣僚がテレビカメラの前に居並んで外国の学者の講義を拝聴する国など、およそ先進国中にはない。日本は「外国」や「ノーベル賞」の権威に動かされやすい国、との誤解が海外に広まる恐れもある。表現は悪いが、権威に弱い植民地根性という言葉すら思い浮かぶ。
●首相は使命の再確認を
この「勉強会」を起案した官僚を、なぜ安倍首相は「みっともないことをさせるな」と一喝しなかったのか。閣僚についてもしかり。「首相に恥をかかせるのか。日本に恥をかかせるのか」と官邸にかみつく閣僚が1人ぐらい出てもよかったはずだ。
40代の若手議員の時代から、党幹部の権威や意向に臆することなく、日本政治の正常化と日本国の名誉回復のために闘ってきた安倍首相は、およそ植民地的価値観とは対極にある政治家である。その安倍政権が、何故こうした、あえて言えば失態を演じたのか。立派な理念を持ちながら、一部官僚に時として引きずられる安倍首相の姿を象徴的に見る思いだ。
優秀であっても官僚の中には、驚くほど日本国の名誉に鈍感な人々がいる。安倍政権の使命は、アベノミクスによる経済活性化と構造改革を実現し、諸外国が争って日本にレクチャーを請うような状況を作り出すことだろう。外国の経済学者の講義を聴くパフォーマンスに税金を浪費してはならない。(了)