公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

西岡力

【第528回・特別版】米国は合同軍事演習を再開せよ

西岡力 / 2018.07.09 (月)


国基研企画委員・麗澤大学客員教授 西岡力

 

 ポンペオ米国務長官が平壌からお土産を何も持たず、むしろ「強盗」扱いされて戻ってきた。トランプ大統領は、このままではシンガポールの米朝首脳会談で約束した安全の保証はなくなると北朝鮮を脅さなければならない。北朝鮮の非核化なしに拉致問題を解決できないわが国にとっても、絶望的な状況になりかねない。安倍晋三首相は米韓合同軍事演習を再開せよとトランプ大統領を説得してほしい。

 ●強盗扱いされた国務長官
 平壌訪問後、ポンペオ長官は「進展はあった」「作業部会を作る」などと外交的な物言いに終始しているが、少なくとも核弾頭・爆弾とプルトニウム・高濃度ウランの保有量と保管場所、ウラン濃縮施設について申告を受けなければ非核化プロセスが進展したとは言えなかった。その意味で成果はゼロだ。
 北朝鮮は、長官が平壌を出発した直後に外務省スポークスマン談話なるものを出し、「米国側はシンガポール首脳の対面と会談の精神に背いてCVID(完全で検証可能かつ不可逆的な非核化)だの、申告だの、検証だのと言って、一方的で強盗さながらの非核化要求だけを持ち出した」と非難した。さらに、「今回の会談を通じて朝米間の信頼はより強固になるどころか、むしろ確固不動であったわれわれの非核化意志が揺さぶられる危険な局面に直面するようになった」と威嚇した。
 米朝首脳会談から約1カ月たち、北朝鮮の金正恩政権が核ミサイルの完全な廃棄を実行するのか疑問が強まっている。私は本欄などで、米朝首脳会談を肯定的に評価してきた。その理由は、共同声明でうたわれた内容が、金正恩氏の完全な非核化約束とトランプ大統領の北朝鮮の安全約束の取引だったからだ。もし金正恩氏が約束を破れば安全はなくなる、すなわち、米国が強い軍事圧力を再度かけるという枠組みが読み取れた。

 ●独裁者に命の危険を感じさせよ
 ポンペオ長官と日韓両国の外相は8日に「全ての大量破壊兵器及びあらゆる射程の弾道ミサイルの完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な廃棄を目指すとの共通の目標を確認するとともに,安保理決議の完全な履行に向けた具体的な行動を北朝鮮から引き出すために協力していくことで一致した」(日本外務省発表)だけで、米韓合同軍事演習再開や制裁強化に言及しなかった。
 トランプ大統領は異常な沈黙を守っている。ポンペオ長官訪朝前には「北朝鮮の非核化は進んでいる」「金正恩氏と会談して戦争を防いだのは自分だ」などと自慢げに語っていたが、米国の非核化要求が強盗扱いされた後、抗議せずツイッターでも発信していない。
 北朝鮮政権は強い圧力、特に独裁者の命の危険を感じたときだけ譲歩する。このままでは安全を保証できないというメッセージを出すべき時だ。具体的には米韓軍事演習の再開に言及すれば良い。金正恩氏が核ミサイルを廃棄したときに初めて、日本は拉致問題解決と大規模な経済支援を議題にした日朝首脳会談を持てる。拉致問題解決のためにも、安倍首相はトランプ大統領に演習再開を説得すべきだ。(了)