国基研企画委員・東京基督教大学教授 西岡力
3月26日午後9時22分、北朝鮮に近い黄海上の白翎島近くで韓国海軍哨戒艦天安号(1200トン)が爆発し、船体が真っ二つに割れ、沈没した。乗組員104人のうち46人が行方不明となり、悪天候の中の捜索活動で軍、民間人に死者が出て、家族らの要請で捜索活動は中断した。船体引き上げ作業が進まない中、原因を巡って激しい論戦が続き、北朝鮮潜水艇や半潜水艇の魚雷か、カプセル型機雷による攻撃だった可能性が高まっている。
●曖昧な李政権の対応
現場は、海上における休戦ラインに当たる北方限界線の南側で、当時、100隻ほどの韓国漁船が操業していた。天安号は北朝鮮軍のレーダーなどを避けるため、白翎島の島陰でパトロール活動を行っていた。白翎島は、中国大陸をにらむ台湾の金門島のように、北朝鮮西海岸を監視する位置にある。
爆発直後、艦長は「攻撃された」と連絡し、別の哨戒艦が現場付近に急派された。爆発から1時間32分後に、不審な物体が白翎島北東から北方向に水面上を移動しているのを哨戒艦が発見して5分間、130発の76ミリ艦砲射撃を行った。国防省は後日、物体は鳥の群れだったと発表したが、夜間に鳥の群れが移動するはずはないという疑問が出ている。3時間後には北朝鮮空軍機が1機、軍事境界線北方30キロまで哨戒飛行した。
韓国大統領府は沈没翌日に「北朝鮮に特異な動きはない」と表明。その後も、「予断を避け、すべての可能性について調査する」という曖昧な立場を貫きつつ、北朝鮮の攻撃可能性は低いとのリークを匿名で行い続け、北朝鮮による魚雷攻撃の可能性を示唆する国会答弁をした国防相を牽制した。
●保守派は事故説を相次ぎ否定
親北左派の影響力がいまだに強いテレビや左派系新聞は、金属疲労説、内部爆発説、暗礁衝突説、韓国軍機雷説などを次々報じ、北朝鮮による攻撃の可能性を極小化する報道を続けている。それに対して、保守派論客の趙甲済氏らと朝鮮日報、東亜日報などが、①金属疲労では爆発は起きない ②船体の構造上、内部爆発はあり得ない ③現場に暗礁はない ④韓国軍が1977年に敷設した機雷は除去されるか無力化されている ⑤魚雷などが爆発した時に起こると同じ程度の地震が現場で観測された―などと、北朝鮮攻撃説以外の可能性を次々に否定し、曖昧な態度を続ける李明博政権を激しく批判している。
国内犯罪に対しては推定無罪の原則が適用されるが、軍隊への外敵からの攻撃は異なる。船体引き上げ作業の進展とともに、李明博大統領が軍統帥権者としてどのような決断を下すかに注目が集まっている。(了)
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第33回:北朝鮮による攻撃の可能性強まる―韓国軍艦爆発(西岡力)