公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

有元隆志

【第782回】原発処理水海洋放出を評価する

有元隆志 / 2021.04.12 (月)


産経新聞月刊「正論」発行人 有元隆志

 

 東京電力福島第1原子力発電所の敷地内にたまる放射性物質トリチウムを含んだ処理水について、政府が海洋放出する方針を固めたことは、遅れたとはいえ「政治の決断」として評価できる。今後は風評被害が拡大しないよう、国内外への発信も含め、菅義偉首相を中心に責任を持って取り組まなければならない。
 日本や韓国などのメディアの一部が「汚染水」と書くのは悪質な印象操作だ。政府も東電も汚染された水を海に流すとは一言も言っていない。福島第1原発では高濃度の放射性物質を含んだ水が出ているが専用の多核種除去設備(ALPS)で浄化処理し、放射性物質をほぼ取り除いた水が処理水と呼ばれる。初期に比べ、ALPSの能力は高まった。

 ●風評被害に反論を
 トリチウムは現在の技術では除去できず、処理水の中に残っている。それでもトリチウムは原子炉内で発生するだけでなく、地球に飛来する宇宙線が大気中の酸素や窒素と衝突することで生じるため自然界に大量に存在し、海水にも含まれている。処理水の海洋放出が世界的に認められている理由の一つである。韓国も含めて海外の原発では処理水を海に放出しているにもかかわらず、福島だけが問題視されてきた。
 処理水を保管するタンクは来秋以降に満杯になるため一日も早く放出方針を決める必要があったが、事実に反する主張を展開してきた人たちによって風評被害が拡大してきたことに対し、日本政府の反論は不十分だった。処理水を海に流さずにタンクにためておいたことで、かえって問題があるかのような印象を与えてしまった。
 原田義昭前環境相は「寄り添うだけでは被災地は救えない」と発言して、処理水問題に取り組もうとした一人だが、後任の小泉進次郎環境相は就任直後の2019年9月に福島県の漁業関係者と面会して、原田発言で国への信頼が揺らいだとしたら「率直に申し訳ない」と陳謝した。こうした言動が韓国などに利用された面は否めない。
 今、小泉氏は記者会見などで「決定を先送りし続けることで復興の足かせとなってはいけない」と発言している。このままタンクが置かれ続けたら一度は故郷を離れた福島県民の帰還などにも影響が出る。福島の食品は安全である。福島で被曝による健康被害は出ていない。小泉氏は国内外の福島に対する間違った見方、風評被害に対して、先頭に立って立ち向かうべきである。
 日本の科学者を代表する機関と自任する日本学術会議もぜひ科学的な見地から、福島に対する偏見を払拭するために貢献してほしい。

 ●原発再稼働を
 処理水の問題は日本のエネルギーのあり方と密接に関わってくる。福島第1原発事故以降の安全対策は大幅に強化されたが、いまだに処理水同様、再稼働の前に風評被害が立ちはだかっている。菅首相は2050年までに脱炭素社会の実現を目指すと言う以上、原発の新増設方針を明確にするとともに、再稼働へ向けて次なる「決断」をすべきだ。(了)