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今週の直言

有元隆志

【第925回】「防衛力の5年以内強化」を予算で示せ

有元隆志 / 2022.06.06 (月)


国基研企画委員・産経新聞月刊「正論」発行人 有元隆志

 

 ロシアのウクライナ侵略を受け、ドイツが国防費の国内総生産(GDP)比2%以上への引き上げを決めたのに対し、日本政府は数値目標を掲げることに消極姿勢だった。それが5月23日の日米首脳会談で岸田文雄首相が防衛費の「相当な増額」を表明したのに続き、経済財政運営の指針「骨太の方針」でも、「防衛力を5年以内に抜本的に強化する」と明記する修正案がまとまった。日本政府として明確な意思を示したことに対しては一定の評価ができるが、年末に向けて具体的な予算額を詰めるにあたり、「相当な増額」の約束を着実に履行してほしい。

 ●財務省主導で決めた「相当な増額」
 岸田首相は「防衛費は必要経費の積み上げの結果」との立場をとってきたが、安倍晋三元首相を中心に「国家としての意思を示すことが必要だ」との声が自民党内から高まっていた。首相も日米首脳会談の場を利用し、方向性を明示することは必要だとの認識に傾いた。
 日本政府当局者によると、日本語と英語で発出する日米共同声明に防衛費に関する表現を盛り込むにあたり、財務省も入って協議した。「相当な増額」は英語では「substantial increase」と表現した。当局者は「日本語訳をどうするかは財務省主導で決めた」と明かす。
 戦後、防衛費はおおむねGDP比1%で抑えられ、それを主導してきたのが財務省だった。4月に財務相の諮問機関である財政制度等審議会歳出改革部会に提出した資料「防衛」でも、「防衛力は、国民生活・経済・金融などの安定が必須であり、財政の在り方も重要な要素」と記し、防衛費増額論議を牽制した。
 先の政府当局者によると、協議の中で財務省はこれまでの立場を踏まえつつも、日本を取り巻く安全保障環境の悪化から防衛費を増額する必要性を認め、「相当な増額」に賛意を示した。小野寺五典元防衛相は当研究所の櫻井よしこ理事長が主宰するインターネット番組「言論テレビ」で「(2001年に)骨太が出来て初めてになると思うが、防衛費だけは上げていいということになるのではないか」と語った。

 ●国防には与党も野党もない
 そこで問われるのは政治家の姿勢だ。7月の参院選では防衛費も争点となろう。自衛隊を違憲とする日本共産党は論外だが、立憲民主党は公約で「着実な安全保障」を掲げながら「総額ありきでなくメリハリのある防衛予算」を求めた。泉健太代表は記者会見で「国家予算は限られている。優先度としては教育に回す方が高い」と述べた。ドイツで防衛費増額に踏み切ったのは、軍拡や核兵器をタブー視してきた中道左派の社会民主党(SPD)中心のショルツ政権であったのと大違いだ。
 野党では日本維新の会が「積極防衛能力」の整備を図るとし、防衛費増額のほか、憲法に自衛隊の存在を明記する9条改正に取り組むとした。参院選で改憲勢力が3分の2を上回り、憲法改正へ向けた機運が高まることを期待したい。国防には与党も野党もない。時代の変化を捉え、迅速に対応することが政治家には求められる。(了)

 

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