ロシア軍に占拠されたウクライナ南部のザポリージャ原子力発電所が非常に危険な状態になっている。事態を深刻にとらえた国際原子力機関(IAEA)は、グロッシ事務局長が自ら現地に乗り込み、居座るロシア軍とザポリージャ原発の現状の調査に乗り出した。
●メルトダウンの危険
ザポリージャ原発はロシアのウクライナ侵攻開始から間もない3月に占拠され、運転員らはロシア軍の妨害を受けながらも、原子炉6基のうち2基の運転を何とか継続し、ウクライナの電力の約20%を供給してきた。ロシア軍は原発の建屋内に軍用車両を収納し、原発を事実上の軍事基地化している。
砲撃で原発につながる送電線が少なくとも2回切断され、非常用ディーゼル発電機が起動して冷却に必要な電力を供給した。数日で送電線が復旧して事なきを得たが、もし復旧しなければ、非常用発電機のディーゼル燃料をタンクローリーでピストン輸送しなければならない。戦乱状態では長期間にわたり燃料輸送を続けることは困難であり、燃料の供給が断たれると、福島第一原発事故と同様に「全交流電源喪失」となり、原子炉はメルトダウン(炉心溶融)に至る。
そのような事態になると、世界の多くの国でせっかく原発の必要が認識され始めたのに、再び原子力の利用に水が差され、わが国でも岸田文雄首相が発表した次世代型原子炉の開発・建設の検討が中止に追い込まれかねない。
●日本が提供できる空気浄化システム
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシア軍のザポリージャ原発からの撤収と原発の周囲一帯の非武装化を訴えている。IAEAのグロッシ氏は非武装化について、「二国間や国連安保理で協議される問題だ」と発言しているが、ロシアとウクライナの二国間対話は途絶しているし、ロシアが常任理事国の国連安保理で解決できる問題でないことも明白である。
原発の安全を確保して重大事故を未然に防ぐことを重要な任務の一つとするIAEAは、「核の番人」としてロシア軍に速やかな撤収を要求しなければならない。撤収しなければ「ロシアの原発輸出をIAEAが承認しない」という制裁措置を発動することも必要ではないか。
ザポリージャ原発の惨事の広がりを防ぐため、日本にもできることがある。具体的には、東工大はコンソーシアム企業と国の補助を得て、大型トレーラーに搭載した空気浄化システムを開発した。7月の日本機械学会動力エネルギーシンポジウムでそれを技術展示した。この空気浄化システムをウクライナに複数提供して、万一の場合の欧州各地への放射能汚染を防止すべきだ。武器弾薬ではない、原発の平和利用技術を国際貢献として支援するのだ。(了)
第206回 IAEAがザポリージャ原発を調査へ
現状は危機的状況だ。送電線火災で外部電源が一時喪失。非常用発電機が稼動したが、仮に燃料が切れると福島第1の悪夢が甦る。ロシアによるザポリージャ原発支配を許してはならない。