公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

細川昌彦

【第1042回】G7広島サミットが残した大きな課題

細川昌彦 / 2023.05.29 (月)


国基研企画委員・明星大学教授 細川昌彦

 

 主要7カ国(G7)の広島サミットは、ウクライナのゼレンスキー大統領の電撃的参加に耳目が集まった結果、「中国にどう向き合うか」という本来の重要テーマの影が薄くなった。しかし、広島サミットで注目すべきは経済安全保障とグローバルサウスへの関与であり、いずれも中国を念頭に置いたものだ。
 首脳コミュニケの字面を追い、〝大本営発表〟の政府説明をうのみにするだけでは重要な課題を見失う。

 ●経済的威圧に共同対処できるか
 広島サミットは対中基本姿勢として対話路線を前面に出している。「デカップリング」(分離)ではなく「デリスキング」(リスク除去)を目指すというのは予想されたものだ。今年に入ってまず欧州連合(EU)の執行機関、欧州委員会のフォンデアライエン委員長が、そして米国でもバイデン政権の対話路線を反映してサリバン大統領補佐官が表明していた。
 ただし具体的な行動となると、各国に温度差があって「薄氷」の結束だ。
 経済安全保障のうち特記すべきは、中国による「経済的威圧」への対処だ。これまでの「深刻な懸念」から「共同での行動」へと踏み出せるかが問題だ。想定されるのは標的となった国を支援することと対抗措置を講じることだ。一カ国では対抗できないからこそ、共同での対処が必要となる。
 G7で「経済的威圧に対する調整プラットフォーム」という枠組みを立ち上げて連携するのが成果とされている。もちろん枠組みは重要だが、その器にどういう行動を盛り込めるかに大きな懸念がある。
 議長国の日本がG7の中で唯一、対抗手段を持ち合わせていないのだ。EU、米国は経済的威圧に対して独自に対抗できる措置を有している上に、対抗措置法案も準備している。これに対して、日本は制度を整備する「構え」にさえ及び腰だ。中国を刺激したくないようだが、防衛における反撃能力と同様、あくまでも抑止のため必要だ。
 対抗手段は多様な中から選択する。国家安全保障局(NSS)を中心に政府全体で早急に制度を整備すべきだ。

 ●グローバルサウス会合を柱の一つに
 さらに、グローバルサウスを含めた拡大会合がかつてなく重要になった。G7が中国の積極的な攻勢に出遅れているからだ。拡大会合はこれまでG7サミットの付属物にすぎなかったが、今後はG7サミットと並ぶ2本柱の一つとして制度化することも必要だろう。今回をその第一歩とすべきだ。
 日本が基本理念として米国のように民主主義ではなく「法の支配」を掲げたことは重要だ。そうであるならば、中東の国家が招待国に含まれていないのは問題だ。中国が中東に積極的にアプローチしているだけに関係強化を急ぐべきだ。
 また「法の支配」はグローバルサウスに受け入れられてもこれらの国々を引き付けることにはならない。これらの国々が重視するのは実利だ。脱炭素やデジタル分野での具体的なプロジェクトという実利が有効で、日本が主導すべき所以だ。
 対ロシア経済制裁で再評価されたG7が対中国でも結束し、グローバルサウスを取り込めるか、重要な課題が突き付けられている。(了)
 
 

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G7広島サミットを総括。ゼレンスキー大統領の来日にメディアの目は集中したがサミットの中身はどうか。今回の目玉のうち、経済安保では枠組み作りは合意したが日本には経済威圧への対抗手段がない。2つ目がグローバルサウスだが、中東が入っていない。法の支配もいいが、実利も必要。共同声明は長い必要はなく実際の行動がもっと大事である。