2年前の自民党総裁選挙以来、岸田文雄首相が繰り返し明言してきた「任期内の憲法改正」の約束期限が、来年9月末まであと1年に迫った。9月中の改憲となれば、来年の通常国会での発議が必要であり、今秋の臨時国会での条文化作業は待ったなしだ。
●合意可能な議員任期延長と緊急政令
改憲のテーマだが、自衛隊の憲法明記については自民党と日本維新の会でほぼ合意が成立しつつある。他方、公明党および国民民主党も前向きの姿勢を示し始めたが、まだ温度差があり、4党の合意にはもう少し時間がかかりそうだ。
この点、緊急事態条項のうち、緊急事態発生時の国会議員の任期延長については、4党間でほぼ合意が形成されつつある。合意のポイントは、衆議院の解散後や議員の任期満了前に大規模自然災害等の緊急事態が発生し、適正な選挙の実施が困難な時に、国会議員の任期延長を認めようとするものだ。
しかし、任期の延長どころか、国会を開くことさえ出来ない事態こそ真の緊急事態であり、その時必要なのが内閣の緊急政令である。
今年は大正12年(1923年)の関東大震災から丁度100年目に当たるが、同年9月1日の大震災発生により首都東京は壊滅状態となった。そのため12月11日に帝国議会が召集されるまで、3カ月間は議会不在の状態が続いた。
そこで議会に代わり立法機能を担ったのが、帝国憲法8条に定める緊急勅令であった。山本権兵衛内閣は被災者救済のための食糧調達や物価高騰の取り締まり、債務の支払い猶予、被災者の租税免除等を次々と行っている。その為に発せられた緊急勅令は9月中の1カ月だけで12本、憲法70条に基づく緊急財政処分も2回行われた。
となれば、今後30年以内に確率70%とされる首都直下型大地震が発生し、国会が集会できない時に備えることは、国会の立法機能を維持し国民の命と国民生活を守るため不可欠である。
この緊急政令についても、公明党以外の3党ではほぼ合意が成立している。公明党も白紙委任型でなく予め法律に明記した緊急政令であれば賛成の意向を示しており、4党による条文化は可能なはずだ。というのは、自民、維新、国民の3案とも内閣に無条件で緊急政令権を付与しているのではなく、あくまで「法律に基づいて」緊急政令を発する旨、規定しているからだ。
●岸田首相には決断と実行あるのみ
支持率が低迷している岸田首相だが、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有宣言、防衛費の大幅増額、原子力発電所の新設と国家的な重要課題に次々と取り組んでおり、「安倍晋三元首相でも出来なかったことを俺はやっている」と自信を深めているとの報道もある(7月23日朝日新聞)。
その言や良し。次は首相の決断次第で現実味が増す憲法改正を、岸田首相は公約通り任期内に実現すべきだ。それができれば、占領憲法に風穴を開けた大宰相として歴史に名を刻むことも夢ではなかろう。(了)