北朝鮮の金正恩政権の対日姿勢が突然硬化した。岸田文雄政権はこれまでと全く変わらない原則的なことを言っているだけなのに、北朝鮮はそれを問題視し、いかなる接触も交渉も拒否すると高官が繰り返し表明している。
●金与正氏が態度一変
3月25日、金正恩国務委員長の妹で実質的な権力ナンバー2の金与正朝鮮労働党副部長が談話を出し、岸田首相が「異なるルートを通じて」早期に金正恩委員長に会いたいという意向を伝えてきたと暴露し、「日本が、これ以上解決すべきことも、知るよしもない拉致問題に依然として没頭するなら、首相の構想が人気取りにすぎないという評判を避けられなくなるであろう」と言った。
翌26日、金与正氏は再び談話を出して、岸田政権の林芳正官房長官が前日、拉致問題は解決済みという主張は受け入れられないと表明し、核ミサイル問題を持ち出したことなどを理由に、日本との接触、交渉を拒否すると突き放した。しかし、林長官は新しいことを述べたのではない。岸田首相訪朝の可能性に言及した2月15日の金与正氏の談話に対しても同じ立場を表明している。
北朝鮮の揺さぶりはこれで終わらず、駐中国大使が3月29日、現地の日本大使館からメールで接触を求めてきたことを明かすとともに、「われわれが日本側と会うことはない」とする立場をわざわざ国営朝鮮中央通信を通じて発表した。
その直後に崔善姫外相が談話を出して「岸田首相が『拉致問題』にまたもや言及し、朝日間の諸懸案解決のために従来の方針の下、引き続き努力を続けるという立場を明らかにした」「われわれは、日本が言ういわゆる『拉致問題』に関連して解決してやることもないばかりか、努力する義務もなく、またそのような意思も全くない」と開き直った。崔外相も認めている通り、岸田首相は従来の方針を繰り返しただけだ。
●首相訪朝の条件で対立か
水面下で行われている日朝間の交渉が岸田首相の訪朝の条件をめぐる協議の段階に入り、そこで北朝鮮側が例えば訪朝前のコメ支援などという無理な要求を出し、それを岸田政権が受け入れないので、譲歩を迫るために揺さぶりをかけてきたのではないかと思われる。
岸田政権は表に出た北朝鮮側の言葉に一喜一憂せず、全拉致被害者の帰国を求め、それが実現した後に人道支援と独自制裁解除を行うというこれまでの姿勢を崩してはならない。(了)