まもなく三回忌を迎える故安倍晋三元首相は常々、政治家に必要なのは「結果を出すことにパッション(情熱)を持つ」ことだと語っていた。岸田文雄首相の党首討論、記者会見での発言を見ていると、口では憲法改正を唱えながら、その実現に向けて指導力を発揮しようとしない。安倍氏の言う「パッション」が決定的に欠けている。
●言行不一致
岸田首相は改憲について、自身の9月までの「自民党総裁任期中の実現」を繰り返し訴えてきた。
首相は5月3日に改憲派が開いた集会にビデオメッセージを寄せ、「社会が大きく変化し、憲法改正はますます先送りのできない重要課題となった」と強調。さらに「いたずらに議論を引き延ばし、選択肢の提示すら行わないということになれば、責任の放棄と言われてもやむを得ない」と言い切った。
通常国会が6月23日に閉会し、9月までの改憲は不可能となった。それでも岸田首相は6月21日の記者会見で「デフレ脱却や政治改革、憲法改正といった道半ばの課題がある」と述べ、総裁再選に意欲を示した。
6月19日の党首討論では、立憲民主党が国会での改憲に向けた論議に消極的だとして、泉健太代表に「責任ある対応をお願いしたい」と要求した。立憲民主党に注文を付けるよりも、首相が表明すべきことは国会の会期延長だった。首相側近からは国会の会期を大幅に延長し、憲法改正に取り組むべしとの意見が出ていた。自民党の「党是」である改憲に取り組めば、再選の道も開けてきたはずだった。
だが、首相は「政治とカネ」の問題で野党からこれ以上追及され続けるのは避けたいとして会期延長を決断しなかった。これでは「言行不一致」である。
●責任放棄
内閣支持率が低迷しているなか、このままいくと次の総選挙では改憲に向けた原案づくりに反対した立憲民主党などの野党勢力が伸長し、改憲勢力で国会発議に必要な衆院の3分の2議席を確保するのは難しくなるかもしれない。その意味でも、岸田首相の責任は大きいが、本人にその反省のかけらもないようだ。
同じく岸田首相が目指した安定的な皇位継承についても、国会閉会により各党協議の結論を先送りすることとなった。
自らの「責任を放棄」した首相がこれ以上、権力の座にしがみつこうとしても誰も信用しない。一日も早い退陣を望む。(了)