公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

西岡力

【第1189回】「北に連絡事務所」に反対する理由

西岡力 / 2024.10.07 (月)


国基研企画委員兼研究員・麗澤大学特任教授 西岡力

 

 北朝鮮による拉致被害者、横田めぐみさんの弟の横田拓也さんが会長を務める「家族会」と私が会長を務める「救う会」は、石破茂首相が自民党総裁選で主張した平壌と東京に連絡事務所を設置する案に反対してきた。その理由は、①北朝鮮は拉致被害者を含む全住民に公民証を持たせ厳しく管理しているので、新たに調査をするということ自体が時間稼ぎに過ぎない②北朝鮮では大使館を持つ国の外交官にも厳しい行動制限があるから、連絡事務所をつくっても日本側が拉致被害者に近づくことは不可能―などである。

 ●「首相が理解を求めた」は不正確
 私は、石破氏が首相になれば日朝間の水面下での交渉経緯や、日本政府が持つ被害者情報を閲覧するはずだから、連絡事務所設置という持論を実行することをためらうはずだと考えている。だから、私は10月2日に石破首相から電話をもらった時、これまでの流れをよく知ってほしいという話をした。
 4日、産経新聞は一面トップに「『北に連絡事務所』意向伝達 拉致家族会へ」という見出しの記事を掲載、「石破首相が拉致問題の解決に向け、東京と平壌に連絡事務所の開設を検討するという自らの考えを家族会側に説明し、理解を求めた」と報じた。
 石破首相が2日に横田代表にかけた電話の内容を伝えたものだが、実は首相はその電話で連絡事務所について家族会に理解を求めようとしたのではない。横田代表は3日夜、救う会が開いた集会で「石破首相が家族会に連絡事務所の設置や合同調査委員会の設置を説得の形で伝えたという報道は正確ではない。首相から電話をもらったので、こちらの側から家族会が設置に賛成していないことを伝えた」と説明した。

 ●懸念材料は日朝国交促進派の登用
 石破首相は4日の所信表明演説で、拉致問題を「時間的制約」のある「人道問題」と位置づけた。これは、拉致問題を核・ミサイル問題と事実上切り離し、人道問題の枠組みで先に解決するという岸田文雄政権の方針を引き継いだもので、これまでの経緯を踏まえた順当な方針だ。拉致は「国家主権の侵害」という表現も入った。拉致を「政権の最重要課題」とする安倍晋三政権以来の方針も維持された。私たちが懸念する連絡事務所設置は言及されなかった。
 演説の中の「日朝平壌宣言の原点に立ち返り」という表現について、同宣言には拉致という表現がないことへの懸念が出ているが、拉致問題と核・ミサイル問題が解決した後に北朝鮮と国交を正常化し、韓国に実施したのと同じ枠組みで大規模な経済協力をするという宣言の骨子は、アメとムチの例えのアメに当たる部分だ。演説は「時間的制約」という表現で、アメをもらうには親の世代の存命中というタイムリミットがあると言っているので、岸田政権の姿勢と差があるとは思えない。
 問題は、石破政権がこの所信表明演説どおりに取り組むかどうかだ。日朝国交促進議員連盟のメンバーが多数登用されている内閣人事には緊張感を覚える。(了)