中国政府は11月30日、日本に対して中国に入国する際の短期滞在ビザ(査証)の免除措置を再開した。日本政府は「中国が日本との関係改善に向けて前向きな姿勢」と評価し、石破茂首相は29日の所信表明演説で、自身が日中首脳会談で指摘した成果であると誇示している。果たしてそうなのか。
●日中会談後の説明には言及なし
15日の首脳会談後の日本政府による会談内容説明では、一切本件は触れていない。石破首相の発言とされたのは、中国軍の活動の活発化や深圳での児童殺害事件への懸念、そして日本産水産物の輸入解禁の早期実現、日本産牛肉の輸入再開、精米の輸入拡大の要求だけだ。
ところが会談から数日たって中国側から突如発表の打診があったようだ。もちろん経済界も短期ビザ免除をこれまでも中国側に要望しており、歓迎できる。そこで日本政府は「首脳会談の成果」にしたようだ。石破首相の外遊での立ち居振る舞いなど失点続きの中で、外交成果を誇示できる数少ない材料ということだろう。
では何故、中国が日本に対してこうした「外交カード」を切ったのか。中国の低迷する経済と米国のトランプ次期政権への備えもあって、日本との関係改善を急ぐ狙いだと外交当局は解説しているようだ。一見もっともらしいが、果たしてそうだろうか。
日本は外交を日本からだけ見る悪い癖がある。中国は新型コロナウイルスの感染拡大を封じ込める「ゼロコロナ政策」を2023年1月に終え、同年7月から短期ビザの免除対象国を順次広げてきた。直近では今年11月1日に韓国など9カ国に対して発表している。そして中国が22日に発表した対象国は日本だけではなく、ブルガリアなど含めて9カ国だ。
こうした一連の動きを見ると、日本を重要視してということではなさそうだ。また米国の大統領選以前からの一連の動きであり、トランプ氏の再登板とも無関係であろう。
●半導体エンジニアに狙い
日本は手放しで喜んでいてはいけない。とりわけ日本、韓国については、中国の関心は半導体のエンジニアにあると見られているので要注意だ。
中国では半導体で過剰生産につながる大規模投資が続き、市場の席捲を目論んでいる。とりわけ電気自動車などの省電力に不可欠なパワー半導体で日本の製造装置に旺盛な注文がきている。そうした装置の据え付けや保守にはメーカーのエンジニアを必要とし、これまでは中国との行き来に短期ビザが必要だった。
対中ビジネスが盛んになること自体は一般的には望ましい。しかし中国が戦略的に動いている半導体分野では慎重な対応が日本企業にも求められる。
また短期ビザ免除の措置だけでは、未だ安心して中国に行ける環境ではない。中国では2023年3月にスパイ容疑で拘束された日本人駐在員幹部が起訴された。少なくとも日本人17人が拘束されており、容疑内容も明かされない。いつ拘束されるか分からない状況で、中国出張を控えている企業も多い。そうした本質的な問題を解決してこそ、首脳会談の成果と胸を張れるのではないだろうか。(了)