米国のトランプ政権と中国の習近平政権の高関税の応酬が激しているが、形勢は必ずしも米国有利とは言えない。米国の金融市場に動揺が広がっているからだ。最大の対米投資国、日本の石破茂首相は、さっさとトランプ政権に寄り添い、米国に金融協力する意志を明確に打ち出すべきである。
●関税戦争、強気の中国
トランプ大統領は高関税砲を敵対国、同盟国の区別なく乱射してきた。しかし、4月9日に発動した相互関税について、日本など多くの国々向けに実施を90日間停止して交渉に応じる半面、中国に対しては145%の追加高関税をそのまま適用したことから、中国が主ターゲットであることが歴然となった。これに対し、習政権は直ちに125%の対米報復関税で応じた。100%を超える関税は貿易ビジネスを成り立たなくするので、当然、ディール(取引)が必要になるが、習国家主席・共産党総書記は対話を持ちかけるトランプ氏に背を向ける。
中国側が強気になれるのは、米金融市場が荒れ出したからだ。米国は世界最大の債務国であり、貿易収支など1兆数千億ドルにも上る経常収支の赤字分以上の資金が海外から流入しないと、経済難に陥る。強いドルと株高が続いた過去数年間、この弱点は表面化しなかった。ところが、4月4日に習政権が対米報復関税とレアアース(希土類)禁輸などの対決策を打ち出したことで、ドル安、株安に国債安が加わる「トリプル安」に陥った。トランプ氏は急きょ、中国以外の国への高関税適用を停止したが、市場では先週末4月11日時点でも国債売りが止まっていない。米国債は本来、外国投資家の最後の拠り所である。値崩れは「米国全面売り」を意味する。強気で鳴るトランプ氏も焦りだした。
習政権は米国との持久戦に耐えられると踏んでいるようだ。自由市場の米国とは真逆の中国は金融市場をがんじがらめに規制する仕組みを持つ。資本流出を厳しく制限し、人民元の変動を市場介入によって制御する。習政権は金融市場波乱を強権で押さえ付ける。
●日本ができる米国債買い支え
米金融市場安定のカギを握るのは、対米投資を中心に世界最大の対外金融資産を持つ日本だ。新型コロナウィルス禍で揺れた2020年、日本の対外投融資は米経常収支赤字の9割相当に上り、米金融市場は安定した。
石破首相は対米交渉で腹心の赤沢亮正経済財政・再生相をまず派遣するが、赤沢氏は金融とはおよそ無縁である。機動的な米国債買いなど対米金融協力を条件に、高関税を取り下げさせるといったタフな交渉はできそうにない。(了)