公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

有元隆志

【第1250回】尖閣防衛の抜本的見直しを

有元隆志 / 2025.05.12 (月)


国基研企画委員・産経新聞特別記者 有元隆志

 

 沖縄県の尖閣諸島周辺で5月3日、中国海警局の艦載ヘリコプターが短時間ながら日本の領空を侵犯した。中国ヘリによる領空侵犯は初めて。日本の民間機が尖閣周辺を飛行したためヘリを飛ばして警告したと中国側は主張しているが、そうした既成事実を積み重ねる「サラミ戦術」を中国は繰り返してきた。日本政府は「極めて遺憾」と抗議したが、従来型対応では限界がある。尖閣防衛の抜本的見直しを求めたい。

 ●バラバラな広報対応
 尖閣上空を飛行した男性(81)は八重山日報の取材に「今、尖閣諸島を守っているのは海上保安庁だが、国民として海保にすべて任せ、知らん顔をしているわけにはいかない。一石を投じる意味があると思って今回実行した」と話した。
 政府内では男性が尖閣上空を飛行するとの情報を事前に得て、不測の事態が起きるかもしれないと準備した。ただ、海上保安庁、外務省、首相官邸で緊急事態に対応する事態室の広報対応はバラバラだったため、最終的に国家安全保障局(NSS)が取りまとめた。
 北朝鮮の弾道ミサイル発射に対しては官房長官らによる緊急参集をはじめ、政府の対応も迅速になっているが、尖閣問題では不十分だ。連休中ということもあったが、石破茂首相や林芳正官房長官が直接対応することはなかった。
 ある政府当局者は「日本の領土とは言え、尖閣をめぐって海保と中国側による激しいつばぜり合いが日々展開されている。そうした危険な海にもかかわらず、民間による遊覧飛行を止める権限は日本政府にない。果たしてそれでいいのか」と語る。
 尖閣諸島は日本固有の領土だが、最大の魚釣島を含め全て無人島で、日本が現実に支配しているのは領海のみだ。中国の海警局は頻繁に領海侵入をして日本の支配に挑戦し、装備を逐次強化している。その積み重ねの中で今回の領空侵犯が起きた。

 ●警備隊を常駐させよ
 尖閣諸島を行政区域に含む沖縄県石垣市は令和2年に同諸島の字(あざ)名を「登野城」から「登野城尖閣」に変更し、新字名を記した標柱を設置するための上陸許可を政府に申請したが、不許可となっている。
 別の政府当局者は「防ぐだけでは限界があり、攻めに出ないといけない。標柱を設置し警備隊を常駐させないと日本の実効支配と言っても空虚だ。尖閣に常駐する場合、戦争になるかもしれない。それぐらいの覚悟が必要だ。領土を守るということはそういうことだ」と語る。待ったなしの対応が求められている。(了)