公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

岩田清文

【第1270回】憲法改正で国難を乗り切れ

岩田清文 / 2025.07.07 (月)


国基研企画委員・元陸上幕僚長 岩田清文

 

 日本は今まさに国難を迎えている。中国の台湾侵攻準備が着々と進み、台湾・日本有事の危険度が高まる中、米国のトランプ政権は「法の支配」よりも「損得」を優先している。戦後80年の世界秩序維持が崩壊し始めた今、重要なのは、日本の政治指導者がリーダーシップを発揮して、日本をあるべき方向に導くことである。

 ●防衛努力の本質は国を守る意志
 トランプ政権は、米国に対する欧州同盟国の過度の依存を軽減させるため、北大西洋条約機構(NATO)に対して防衛費を国内総生産(GDP)比5%とする防衛努力を要求した。これに対しNATOは、6月25日の首脳会議において、米国の要求をのむことを承認した。
 これに先立ち20日には米国防総省のショーン・パーネル報道官が「日本を含むアジアの同盟国は、防衛支出をGDP比5%に引き上げる必要がある」と述べ、矛先を日本にも向けてきた。日本政府は、防衛支出の割合は日本が独自に定めると応えているが、現状でも1.8%であり、 2027年度において2%を目標としている計画を、NATOのように2035年度までに5%に引き上げることが達成可能かどうかは未知数だ。
 防衛努力は防衛費という金銭的な数字ありきではない。防衛努力は国家としての防衛に対する意志であり、対象国の脅威に向き合う覚悟を示すことが本質である。これまで長きにわ
たり、米国から日米同盟の関係を「安保ただ乗り」と揶揄やゆされてきた。そのたびに日本は、米国の日本防衛義務に対し、日本が米国に基地を提供する義務を負うことによって双務性を担保しているとしてきた。
 しかし、その説明も損得を価値基準とするトランプ大統領には通用せず、3月7日及び4月11日には、「米国は日本を守るが、日本は米国を守る必要がない」との不満の発言となって表れた。

 ●9条2項の撤廃目指せ
 今こそ、「戦力不保持」を明記した憲法9条第2項を撤廃して集団的自衛権行使を全面的に認め、共に守り合う双務的な日米同盟に発展させるべきである。これにより、米国と真の相互防衛関係を築くことができ、中国に対する抑止力が高まる。
 加えて、憲法改正に伴い、米国の日本における施設及び区域使用を規定した日米安保条約第6条を改定し、日米地位協定の改定を行うことが可能となる。それによって、これまで問題とされてきた米軍基地への立ち入り権、「横田空域」(横田基地の米軍が航空管制を行っている空域)を含む米軍の地域使用、さらには米軍の日本国内における訓練・演習規制等、戦後初めて日米対等な立場で見直しが可能となる。
 もう一つの重要な点は、多国間同盟が可能となることだ。これまでオーストラリアやフィリピンとの関係が重要視されてきたが、集団的自衛権の行使が全面的に認められることにより、日米豪比4か国同盟の締結が可能となり、中国に対するさらなる抑止力の強化が期待できる。
 国難の時代の今こそ、ピンチをチャンスに変える政治の英断を切に求めたい。(了)