公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

【第104回】野田氏の使命は民主党より国家の再建だ

遠藤浩一 / 2011.08.29 (月)


国基研理事・拓殖大学大学院教授 遠藤浩一
 
民主党の新代表、すなはち次の首相に野田佳彦財務相が選ばれた。

事前の予想では、小沢一郎、鳩山由紀夫といふ二人の元代表の支持を取り付けた海江田万里経済産業相が有利と見られてゐた。実際、海江田氏は一回目の投票で一位となり、野田氏に41票差をつけたが(海江田氏143票、野田氏102票)、決選投票では38票差で敗れた(野田氏215票、海江田氏177票)。

トロイカ体制の終焉
今回の結果について一言で表現するならば、小沢、鳩山、菅直人3氏による〝トロイカ体制〟の終焉といふことになるだらう。党内で圧倒的な数の力を持つとされる小沢・鳩山連合が代表選で2連敗を喫した結果の持つ意味は小さくない。小沢神話は崩壊した。鳩山氏も政界に居場所がなくなりつつあることを知るべきだ。首相としての当事者能力の欠如を露呈して辞職する菅氏ともども、このお三方には、早々に政界から引退することをお勧めする。

野田氏の勝因は、小沢、鳩山両氏に推されただけの海江田氏に対する不安と反発を吸収し切つたことだ。その意味で、野田氏の演説は、よく吟味されてゐた。復興増税など具体的な政策については直せつな表現を避けつつ、しかし増税から逃げないといふ姿勢は明確に打ち出して見せた。

その一方で、「しがらみを越えて、人間関係を越えて、誰がこの国を背負つていけるか、曇りのない目で判断してほしい」と、小沢支配からの脱却、首相としての適格性の重要性を訴へた。「思惑ではなく思ひで、下心ではなく真心で、論破ではなく説得で」とのフレーズも、〝トロイカ〟世代に対する皮肉が効いてゐた。「解散はしない」と明言したのは、解散をおそれる民主党議員心理をくすぐつたに違ひない。

確固たる国防政策を
一人の日本国民として、私は海江田氏ごときが首相にならなくてよかつたと心底思つてゐる。さりとて、野田氏の下で日本が再建できるかどうかは不明だ。野田氏はこの先、茨の道が待つてゐることを覚悟しなければならない。

例へば、増税ひとつ取つても、復興財源と社会保障財源という二つの増税を一気に実現するのは至難のワザである。特に野田氏は野党との協調を打ち出してゐるのだから、あまり欲張らず、構造的問題たる社会保障と税の一体改革に重きを置いて、復興増税については柔軟に判断すべきではないか。国防・安全保障についても、しつかりした方針と政策を提起してほしい。東アジアの情勢が緊迫してゐることをわきまへてゐるのかどうか心もとない。

平均年齢57歳―。今回の代表選は、比較的年齢の若い候補者が並んでゐた割に、清新なイメージは感じられなかつた。なぜか。民主党といふ「器」がすつかり清新さを喪失してしまつてゐるからである。野田氏には、民主党などといふちつぽけな枠を越えて、より広く深い視点から日本国家の再建に取り組む指導者であつてほしいと願ふ。(了)

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第104回:野田氏の使命は民主党より国家の再建だ(遠藤浩一)