京都大学大学院教授 藤井聡
「国家」というものは、栄えることもあれば亡ぶこともある。世界史の中では、超大国であった国が小国、貧国に落ちぶれる例は枚挙にいとまがない。
その一つがポルトガルだ。ポルトガルは18世紀に世界を〝支配〟するほどの強大な国力を誇っていた。しかし、そんなポルトガルの国力を一気に削いだのが「リスボン大地震」(1755年)という巨大地震であった。
死者は6万人に上り、火災によって、そして大津波によって首都リスボンは壊滅した。その結果、ポルトガル経済は大打撃を受け、これが世界一の大国の座から凋落する引き金となったのだった。
10年以内に「平成関東大震災」
つまり,首都を襲う巨大地震は、大国を一気に凋落させる恐ろしい力を秘めているのである。それから200年以上が経過した今,同じような危機に晒されている大国がある。我が日本である。
関東平野は、歴史的には30~50年ごとにマグニチュード(M)6.5~8程度の巨大地震に襲われ続けてきた。しかし今、関東平野では実に90年近くも大地震が起きていない。この「異様」な事態は、要するに関東平野の足元に地震エネルギーが溜まり続けていることを意味する。
そんな中、3月に東日本大震災が起きてしまった。これもまた歴史を振り返れば、東日本の太平洋沖で大地震は過去2000年間に4回起きているのだが、その4回とも例外なく首都圏で大地震が10年以内に起きている。こうした事実を踏まえれば、「平成関東大震災」が10年以内に起きることはほぼ間違いない状況にあることが分かる。
有史以来最大の危機
これだけでも、日本は国家的危機に晒されていると言い得るのだが、残念ながら我が国は、大阪、名古屋を含めた西日本全域を直撃する「東海南海東南海地震」の危機にも晒されている。その20年以内の発生確率は、実に7~8割程度にまで上がる。
つまり、日本は戦後肥大化し続けた3大都市圏が一気に壊滅しかねない、第2次世界大戦に匹敵するとも言い得る程の、有史以来最大の危機に直面しているのである。
しかし、技術立国であり経済大国である日本には、そんな危機を乗り越えるために必要な、徹底的な防災対策や強靱な国土の構築を企図した200兆円規模の財源に基づく「列島強靭化」を果たす底力が間違いなくある。
だが、足らぬものが一つだけある。列島強靭化に向けた「政治決断」である。だからこそ我々は今、国家存続を期するために、そんな政治決断を下すためのあらゆる努力をなさねばならない。日本の命運は、我々、平成日本人の手に委ねられているのである。(了)
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第107回:国家存続のため「列島強靭化」の政治決断を(藤井聡)