公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

【第108回】日印で「戦略的空白」を埋める時が来た

ビジャイ サクジャ / 2011.09.26 (月)


インド世界問題評議会研究部長 ビジャイ・サクジャ

感銘受けた安倍氏の講演
安倍晋三元首相は、アジア・太平洋地域の将来の安定と安全について自身の見方を実に率直に表明することで、心に残る感銘をインドに与えた。このほどニューデリーを訪問した安倍氏は「海で出会う二つの民主主義―より良く安全なアジアのために」と題する講演で、民主主義国が海軍力などを提供し合い、海の秩序を守るという構想を示した。

この中で安倍氏は、米国の力の相対的な衰退によりアジアにゆっくりだが確実に忍び込みつつある「戦略的な空白」を埋めるため、日印間の関与を拡大することを強く訴えている。中国が台頭して自己主張を強める折から、このことはとりわけ重要である。

重要な民主主義国の提携
インドと日本の経済的活力は、エネルギーの確実な供給と、域内の貿易ルートの安全確保に大きく依存している。この現実に照らして、民主主義国であるインドと日本はこの地域における安全保障の力学の変化に重大な利害関係を有している。安全を脅かすものは、それがいかなるものであっても、両国の経済成長に負の影響を及ぼしかねない。

これまで両国の政治指導者は、二国間・多国間の合同演習、情報の共有、アデン湾での海賊対処のための訓練と対話、海上の警備、人道支援・災害救援活動などを通じた、安保・防衛協力の拡大や能力づくりの必要を唱えてきた。インド海軍と日本の海上自衛隊は先頭に立って力強い協力関係を築き、アジア・太平洋地域の安定を確保すべきである。

海の秩序を守るため「民主主義国の提携」を唱える安倍氏の構想は、中国の海上行動に絡む最近の出来事に照らしても、重要性を持つ。

中国は海空軍力を展開して、国際的に受け入れられた「海洋の自由」に挑戦し、海洋法で想定された国家の海域管轄権に疑問を呈し、南シナ海で領有権を主張する他国を威嚇する攻撃的な態度を取り、海底資源の合法的な探査にさえ反対してきた。これらの動きは域内諸国の信頼を低め、これら諸国が戦略的な計算をする際に「中国の脅威」のレベルを高めることになった。

カギを握る海軍協力
作戦レベルでは、インド海軍と海上自衛隊は、中国が中距離弾道ミサイル「東風21」を対艦用に改造し、空母とその艦隊など巨大な海上目標を攻撃して無力化する能力を持つことに、対処しなければならない。数年後に中国の空母が就役し、インド洋に進出すれば、中国の脅威は増す。

その意味で、インド、日本、米国を中心とする民主主義国の対話を呼び掛けた安倍氏の構想は、実行可能な選択肢だ。成功のカギを握るのは、海軍の共同行動であり、米海軍と一緒に行動する能力であろう。(了)

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第108回:日印で「戦略的空白」を埋める時が来た(ビジャイ・サクジャ)