公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

冨山泰

【第194回】日印協力でアジアの安全に貢献できる

冨山泰 / 2013.05.20 (月)


国基研企画委員 冨山泰

 

 台頭した中国が独善的な傾向を強め、他のアジア諸国とのあつれきを生む中で、アジアの二大民主主義国家である日本とインドは安全保障、産業、国際政治の各分野で協力を深めるべきであり、それによってアジアの平和と安定に貢献できるという内容の日印共同研究が、国家基本問題研究所とインドのビベカナンダ国際財団(VIF)の間でまとまった。研究報告書は21日に東京とニューデリーで同時発表される。

 ●「アジア協調」体制構築を提唱
 共同研究は、米国がイラクとアフガニスタンでの戦争に没頭している間にアジア太平洋地域で中国の台頭を許したのを受け、オバマ米政権がアジアへの回帰を宣言するという国際的な戦略環境の変化の中で実施された。1815年のナポレオン戦争終了から1914年の第1次世界大戦勃発まで100年間にわたり欧州主要国間の平和を守った「ヨーロッパ協調」を念頭に、共同研究は、日本とインドが米国や他のアジア諸国と協力して「アジア協調」体制を築くべきだと提唱している。
 具体的には、中国の軍備増強への懸念を共有する日本、インド、東南アジア諸国連合(ASEAN)各国などが米国と協力して、インド洋・太平洋地域の安全確保のため連携を強化することが必要であるとの点で国基研とVIFは一致した。
 日本とインドは歴史的に互いに親近感を持ち、自由、民主主義、法の支配、人権尊重の価値観を共有し、政治・経済・安全保障面で共通の利益を有しており、二国間協力を拡大する余地は大きい。
 報告書は、日本政府が武器と軍事技術の輸出や国際共同開発・生産を規制する武器輸出3原則のインドへの適用を緩和することや、日印原子力協力の推進、サイバー分野での協力を提唱している。日本とインドが本格的な軍事協力に踏み込むには、日本の憲法改正が不可欠であることも報告書に盛り込んでいる。

 ●米ロとの距離感で隔たり
 もっとも、日印の政治的立場の相違を反映して、国基研とVIFがすべての点で一致したわけではない。違いの一つは米国との距離感だ。インドは、親ソ陣営の一員だった冷戦時代に、米国がインドと敵対する中国、パキスタンを支持したことが忘れられず、将来、中印または印パ間の紛争が起きた場合に、米国の支援をどこまで期待できるのか確信を持てないでいる。これに対し、日本はインドとの安全保障協力を深化するとしても、基軸は日米同盟にならざるを得ない。ロシアに対する親近感でも日印間に隔たりがあり、北方領土問題が未解決のままでロシアを「アジア協調」体制に取り込むことについて、日本側には抵抗がある。
 こうした相違はあっても、報告書が日印両国の包括的な連携と協力の大枠を提示した意義は大きい。安倍晋三首相は日印協力の推進に積極的で、政権に復帰する前に、今回の共同研究の「共同後援者」を引き受けた(インド側の共同後援者はプルノ・サングマ元下院議長)。報告書が今後の日印協力に何がしか役立てば、シンクタンクとして願ってもないことだ。(了)