公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

奈良林直

【第221回】高レベル廃棄物の安全な処分は可能

奈良林直 / 2013.11.18 (月)


国基研理事・北海道大学大学院教授 奈良林直

 

 小泉純一郎元首相が、フィンランドのオルキルオトに建設されている高レベル放射性廃棄物処分のための地下特性調査施設「オンカロ」(フィンランド語で「洞窟」の意味)をちょっと見学しただけで、「我が国は処分場の場所が決まらないから脱原発だ」と発言している。これはおかしい。

 ●ガラス固化体にして地下埋設
 高レベル放射性廃棄物は、高温で溶解したガラスに均一に溶かして、キャニスターというステンレス製の容器に詰めてガラス固化体にし、これを鉄や銅のオーバーパックと呼ばれる分厚い容器に収納して、地下に埋設処分する計画だ。この収納容器は地下の岩盤に開けた穴に入れて、放射性物質を吸着する遮水性の粘土を穴に詰め、万一の放射能漏れに備える。
 出雲大社の隣には島根県立古代出雲歴史博物館があって、近くの遺跡から発見された紀元前2世紀から紀元2世紀の弥生時代の銅鐸や銅矛などが多数展示されている。表面の装飾模様まできれいに残っており、金属が地下で腐食されずに2000年以上埋設保存可能であることを示している。
 高レベル廃棄物は、最初は放射能が非常に強いが、40年で1000分の1に弱くなる。最初の40年は建物(中間貯蔵施設)の中に保管することになっており、既に青森県に貯蔵施設がある。この施設では、廃棄物は空気で冷やされるから、他に何も要らない。空気が自然に入って、自然に暖かい空気が出てくるので、電気も使わない。40年の間に最終的な埋設場所について議論を重ねればよい。もし決まらなくても、建物の中に保管する期間を延ばすだけでよいのだ。放射能のレベルは150年で1万分の1に、800年で10万分の1に、3000年で100万分の1に減る。

 ●議論重ね国民の理解を得よ
 ウラン鉱石と同じ放射能のレベルになるのは1万年も2万年もかかるので大変だが、800年ぐらいなら、日本は2000年の歴史があるわけだから、きちんと建物の中で管理し、保管料を取ればよいのである。40年でも150年でもよいから、まず建物の中に保管して管理することが基本だ。海外の実績を見ながら議論を重ねて国民の理解を得ればよく、別にあわてる必要はない。もし地下に安定した岩盤が見つからなければ、エジプトのピラミッドのように石造りの建物を造り、そこに並べて保管管理を続ければよい。
 小泉元首相は何を血迷ったろうか。軽薄な発言で、今までの輝かしい経歴も地に落ちてしまった。自民党の石破茂幹事長は国の主導で最終処分場を決めろと言い出したが、そんなことをすれば国民の反発を招き、小泉元首相の思うつぼだ。我が国の全ての原子力発電所の使用済み燃料を再処理して埋設処分しても、たかだか青函トンネル数本分の規模である。大騒ぎすることではない。(了)