11月15日から来日中のチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ法王14世が東京、千葉、静岡、京都などで対話集会や講演などを積極的に繰り広げているが、迎える日本の政治家の対応は及び腰だ。安倍晋三首相との会談も実現していない。
●講演会への議員出席半減
国会議員への特別講演会は20日、参議院議員会館で開かれ、法王は水資源などの環境問題、中国で相次ぐチベット僧たちの焼身自殺などについて語った。主催は「超党派国会議員有志の会」(世話人代表=平沼赳夫・日本維新の会国会議員団代表)。昨年に続いて今年も法王と議員の集会を開いた努力を評価するものの、参加者は自民党議員103人をはじめ8党の141人(うち議員本人は64人、残りは代理)。同じ場所で開かれた昨年11月13日の集会に参加した232人(議員本人は134人)の約半分だ。
「チベット支援議員連盟」が昨年結成されたのに、なぜ主催者が有志の会に格下げとなったのだろうか。また昨年は「チベットおよびウイグルなどに対する中国の不当な人権弾圧」の改善を中国政府に求めるアピールまで採択したが、今年はそれに類することを避けたばかりか、参加議員が講演中に中座するなど出入りが激しく、法王に対する失礼が目に余った。前回の集会では、首相復帰前の安倍自民党総裁も「チベットに対する日本の政治対応は大きく変化した。我々もしっかり連携していきたい」と挨拶し、自由と人権を求める闘いに日本もコミットする大きな前進を見せたはずなのだが…。
●政府首脳の接遇でも欧米と差
折から訪中し、トップとの会談を要望していた日本の経済界代表団の障害にならないよう配慮して法王との接触を自粛したのか。野党から政権与党になると蓋をせざるを得ない信念や価値観とは何なのだろう。
欧米各国では現職の首脳が法王と会談している。米国ではオバマ大統領と前任のブッシュ大統領が、英国ではキャメロン、ブラウン、ブレアの3首相のほかチャールズ皇太子が会談した。フランスのサルコジ大統領、ドイツのメルケル首相も会った。米大統領執務室ではなくホワイトハウス内のプライベートな居住区で会うとか、英首相官邸ではなく国教会のカンタベリー大主教の公邸で会うといった細工を施したが、いずれも政治、経済的停滞などの代償を支払った。しかし、欧米首脳が法王との会談をあきらめることはない。
靖国神社参拝自粛と同じで、霞が関や永田町にみられる過剰な中国に対する萎縮、日中関係を損ねるのを嫌うオバマ米政権への配慮などが強く働いているのだろう。着任したばかりのキャロライン・ケネディ米新大使を首相官邸に招くスピーディーな対応とは対照的だ。目先の損得勘定ではなく、自由や人権の尊重という普遍的な価値観について発言を続けていくことこそが、結局日本の評価を高め、国益に資するのではないか。及び腰の対応を続けていると、安倍首相に対する折角の国民の広範な支持も失われかねない。(了)