公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

櫻井よしこ

【第230回】政治家は沖縄で国防論議を避けるな

櫻井よしこ / 2014.01.20 (月)


国基研理事長 櫻井よしこ

 

 勝利の万歳三唱をする人々の顔触れを見て、異様な感じを受けた。沖縄県の米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設を最大の争点とした名護市長選挙で、勝った移設反対派の現職、稲嶺進氏を取り囲んだのは、社民党の照屋寛徳衆議院議員ら本土では消え去りつつある革新陣営の人々である。
 「沖縄は常に差別され、今なおウチナーンチュ(沖縄県民)は日本国民として扱われていない」「沖縄は日本国から独立したほうがよい、と真剣に思っている」と、かつてブログに書いた照屋氏ら稲嶺陣営の発言には、沖縄は日本国の一部であり、国益あっての沖縄益であり、いま、国防が最重要事だという考え方は一片も見られない。

 ●世論に怯える国会議員
 沖縄問題の本質は、しかし、このような恨みと反発の声に保守陣営が正面から対峙出来ないできたことだ。歴代の自民党政治家の誰一人として、沖縄県民に国家の意味、国益の重要性を説いてこなかったことである。
 沖縄戦での犠牲、本土より20年長かった占領、復帰後も沖縄に残った米軍基地などへの贖罪の思いゆえに、1972年の復帰のとき本土政府は沖縄の特殊事情を考慮して「総合的な沖縄振興計画」を策定し、今日までその流れが続いている。
 沖縄の革新勢力は常に本土と沖縄を対峙させ、沖縄を被害者の立場に置いて、政府の贖罪意識を利用してきた。
 彼らの被害の合唱を、沖縄のメディアは実態以上に増幅した。こうして作られた世論に沖縄選出の国会議員も怯え、革新陣営の主張になびいてきた。
 今回の名護市長選でも、普天間飛行場については、沖縄選出の自民党議員が当初、揃って県外移設を掲げるという異常事態が発生した。彼らが県内移設容認を決めたのは昨年12月に入ってからでしかない。
 自民党本部はそのような状況を結果として黙認してきた。72年の本土復帰以来、政権与党としての自民党が沖縄で国の在り方、国防、国益を真正面から論じたことはないのである。
 ●金銭的償いに限界
 為政者が国防の意味を説かず、沖縄の被害者意識にひたすら譲歩し、償いとしてのカネを出してきたのだ。こうして、復帰以来40年間に費やされた沖縄復興予算は、基地交付金や周辺整備の予算を含めて実に10兆円を超える。加えて、沖縄には他の道府県にはない異例の優遇措置とこれまた異例の種々の減税措置が実施されてきた。
 カネと特別な優遇措置は、自民党の石破茂幹事長が選挙戦の最終局面で現地入りし、500億円の新たな振興策を提唱したことに見られるように、今回も変わることはなかった。
 だが、そうした努力がもはや通じないのは明らかだ。自公連立も役に立たなかった。いまこそ、自民党は奮起しなければならない。政治家たる者は沖縄でこそ、いま、国家、国益、国防に関して真正面から議論をすることだ。(了)