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湯浅博

【第231回】過去の軍国主義より現役の帝国主義が怖い

湯浅博 / 2014.01.27 (月)


国基研企画委員・産経新聞特別記者 湯浅博

 

 久しぶりに中国の外務省が元気だ。安倍晋三首相による昨年末の靖国神社参拝で、外交的な巻き返しのチャンス到来と判断したのだろう。全世界の中国大使に訓令を出し、「安倍首相が軍国主義の亡霊を呼び起こした」(劉暁明駐英大使)との非難キャンペーンを展開している。常識的に考えれば、2世代も前の日本軍国主義より、現役の中華帝国的な行動の方がよほど怖いと思うのだが…。

 ●歴史カードで外交攻勢
 中国軍部は昨年11月に、日本や韓国と重なる防空識別圏(ADIZ)を設定し、国際的な批判を浴びる失策を犯した。日米の抗議に対して国防省報道官が「とやかく言うな」と一喝し、その傲慢さがかえって中国批判の輪を韓国、台湾、東南アジアから欧州にまで広げてしまった。
 そこに飛び込んできたのが安倍晋三首相の靖国神社参拝だ。中国外務省はこのタイミングを逃さなかった。いつも軍に先行される外務省だから、ここはなおのこと世論戦で挽回しなければならない局面だろう。ADIZ問題隠しである。
 すでに米英仏独韓に駐在する中国大使が、それぞれの主要メディアに投稿し、安倍政権を「過去の侵略を否定し、軍国主義の台頭を許し、戦争の脅威を高める」と同じキャッチコピーで叩きまくる。イスラエルの新聞への寄稿では、ナチスのユダヤ人虐殺と結び付け、東条英機元首相を「アジアのヒトラー」と断罪して日本批判に利用した。
 中国が操る歴史カードは、日本が「戦犯国家」だったことを想起させるとっておきの武器なのだ。中国外交官の弱みは、ついレトリック過剰になって「再び軍国主義に向かう危険」などと信憑性に欠けるセリフを繰り返してしまうことだ。

 ●日本の「平和指数」は高い
 インドネシアのコンパス紙社説は「日本の安倍首相はそんなこと(軍国主義復活)を望んでいない」とピシャリと反論し、逆に中国海軍の増強に警戒感を示した。シンガポールの聯合早報も、軍国主義復活論を「論理的な根拠に欠ける」と書き、香港の明報も「日本の平和指数は中国よりずっと高い」と学者に言わせているから、韓国を除くと現役の帝国主義を牽制する論調がかなり見られる。
 かくて日本は、中国大使による巧言過多の「世論戦」に対して、事実による「反証戦」で応じるチャンスである。中国軍艦が昨年、火器管制用レーダーを海上自衛隊艦艇に照射しても、日本大使の対中批判の寄稿は欧米紙に掲載されにくかった。しかし、中国大使の日本批判が掲載されれば、日本大使は中国の傍若無人を堂々と論証できる。ただ、引き籠りがちな同盟国のオバマ米政権に対しては、怠りなく根回しを要することは言うまでもない。(了)