「中身のないがらんどうの観念論を打ち捨てて、現実に立ち戻れ」「理性と合理に基づいて、日本再生の突破口を開け」―。これが「即時原発ゼロ」を叫んだ小泉純一郎、細川護煕両元首相陣営の大敗に終わった東京都知事選挙が突きつけているメッセージであろう。
国家基本問題研究所は選挙戦の最中、意見広告で「あなたは原発問題だけで都知事を選びますか」と問題提起し、反原発だけを争点にしてはならないと主張した。それは「3・11」(東日本大震災)後の日本のあるべき戦略は決して脱原発ではなく、むしろ原発の安全性を高めて活用していくことに日本の未来があるという主張と一体のものだ。国基研の一連の問題提起が、いささかなりとも今回の選挙結果を後押しし得たのではないかと思うものだ。
●観念論の敗北
改めて数字で確認しておきたい。細川氏は3位の96万票にとどまった。当選した舛添要一氏の211万票と比べて115万票の大差である。細川氏と同じく反原発で2位の宇都宮健児氏の票を足しても、舛添氏と4位の田母神俊雄氏の合計に78万票も及ばない。原発活用を支持する田母神氏は政党の支援がなくても61万票を取り、35万票差で細川氏に迫った。
毎週金曜日の夕方から首相官邸前で反原発デモをしていた人々の姿が、選挙期間中にはほぼ消えていた。細川氏や宇都宮氏らの応援活動に集中していたのではないかと思われる。細川氏支持に回った著名人らを含めて、反原発派は明確に敗れたのである。即ち、観念論に終始した人々は敗北したのである。
都知事の仕事は防災、エネルギー、子育て、教育、福祉、中小零細企業、オリンピックなど極めて多岐にわたる。日本の首都の長として、日本を取り巻く国際情勢を十分に心得ておくことも欠かせない。
●問われる連合の存在意義
これらの問題に背を向けた細川氏らの主張の空虚さを、今回、現場で働く労働組合が拒否したことの重要性にとりわけ注目したい。民主党の支持組織である連合東京は細川陣営を見切ったが、それも単なる自主投票にとどまらず、組織を挙げて舛添氏の支持に回ったのである。連合自体に根本的な問いを突きつけているということではないか。旧官公労と民間労組の合体そのものに正統性はあるのか、という問いである。
総評や日教組などの官公労とゼンセン同盟や電気通信労組などの主張は元々、水と油である。民主党と同じく性格の異なる労組を抱え込んだ連合に、国の重要施策について統一行動がとれるはずはなく、その未来展望は暗い。都知事選を舞台に原発問題で生じたヒビは、連合の歴史的使命がすでに終わったことを示している。
観念論を脱却せよとのメッセージに終わった都知事選はまた、安倍晋三首相に安全を踏まえた上での原発の再稼働、及び長期的な原発活用戦略を整えよとも告げている。(了)