公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

今週の直言

田久保忠衛

【第234回】オバマ「宥和」政策で同盟関係に危機?

田久保忠衛 / 2014.02.17 (月)


国基研副理事長 田久保忠衛

 

 「同盟国や友好国絡みの戦争に巻き込まれたくない」との思いが米オバマ政権に強いため、軍事力を誇示しなければならない場合に「交渉」「話し合い」に傾く気持ちはよく分かる。国内世論の動向、財政赤字の軍事費へのしわ寄せという内臓疾患を抱えていれば、なおのこと「内向き」の政策が続くだろう。が、その度が過ぎると、国際秩序を締めているボルトが緩む。その結果、同盟関係にガタはこないか。

 ●フィリピン大統領の悲鳴
 フィリピンのアキノ大統領は2月4日にニューヨーク・タイムズ紙とのインタビューで、自国領のスカボロー礁が中国の実効支配を受けている、と痛切なアピールを世界に向かって発した。
 第2次世界大戦の引き金になってしまった1938年のミュンヘン会談で、チェコスロバキアのズデーテンラントを要求したヒトラーに対して英国のチェンバレン首相が宥和政策を取った有名な歴史に、中国によるフィリピンへの圧力をなぞらえたのだ。
 2012年にスカボロー礁をめぐって中国とフィリピンは軍事的に対立したが、米政府の仲介に従ってフィリピンが軍を引き揚げた後も中国軍は居座り、実効支配を進めてしまったという。
 フィリピンには、米国との軍事関係強化はかつての植民地時代を思い起こさせるので反対だと主張する向きが少なくないが、米比両国は相互防衛条約を結んでいる同盟関係にある。にもかかわらず、アキノ大統領は世界に向かって悲鳴を上げている。

 ●愛想尽かす親米派
 中東で米国はサウジアラビアとの関係をかねて重視してきた。核開発を進めてきたイランに対抗する戦略的な配慮があるのは当然だ。昨年秋、オバマ政権のシリア政策が失敗を露呈したころ、米国とイランとの話し合いが始まった。
 サウジにとって驚天動地の大事件であり、反米論や核武装論を王室の有力者が公然と口にするようになった。シリアのアサド政権、イラクのマリキ政権、レバノンのヒズボラなどイランと同じシーア派かそれに近い勢力に対抗するかのように、スンニ派勢力が勢いづき、抗争が深まっている。スンニ派の盟主サウジの意向と無関係であるはずがない。
 日米同盟に揺らぎはないだろうが、オバマ政権がいとも簡単に中国や韓国と足並みを揃え、安倍晋三首相の靖国神社参拝に「失望した」などという声明を出したり、日本を不当に貶める国際的な合唱団に参加したりすると、米国との同盟関係を冷めた目で見ようとする日本人は増える。かつて日米安保条約に反対した言論機関は今、「失望」声明歓迎で沸いているではないか。(了)