公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

冨山泰

【第269回】日本は官民一体で情報戦に立ち向かえ

冨山泰 / 2014.10.20 (月)


 国家基本問題研究所は19日、都内で催した年に一度の「会員の集い」で「国際情報戦をどう戦うか」と題するシンポジウムを開いた。パネリストからは、日本が戦前から戦後に至るまで国際社会の情報戦で敗れ続けてきた実態が報告され、今日でも日本が官民一体となって情報発信に力を入れない限り、中韓両国との歴史認識問題などで勝つことはできないとの危機感が表明された。

 ●一連の敗北
 登壇した国基研の田久保忠衛副理事長は、内閣調査室在籍22年の春日井邦夫氏の著書「情報と謀略」(国書刊行会)を紹介。この中で、第2次世界大戦当時の英国首相チャーチルが右腕の大物スパイを米国に送り込み、大統領ルーズベルトに原爆の共同開発と、間もなく英国が解読に成功するドイツの暗号情報の共有を持ち掛け、米国の参戦を勝ち取ったという秘話が書かれていることなどを説明した。
 小野寺五典前防衛相は、日本が国連安保理常任理事国入りを目指す安保理改革問題に2005年に外務政務官として関わった経験を振り返り、当時の日本が多数派工作に失敗した一因に、外務省がアフリカ諸国の動向を読み誤り、情報戦に敗北したことを挙げた。
 国基研企画委員の西岡力東京基督教大学教授は「日本は北朝鮮との情報戦にずっと負けてきた」と語り、日本政府が握った北朝鮮の核開発に関する極秘情報がかつて自民党実力者を通じて平壌に筒抜けになっていたエピソードを紹介した。

 ●濡れ衣を晴らせ
 来年は終戦70周年の節目を迎える。それに合わせ、中国や韓国が米国はじめ国際社会を巻き込んで、首相の靖国神社参拝問題や慰安婦問題などで日本を批判する歴史戦や情報戦を強化してくるのはほぼ確実だ。田久保氏は、日本が情報戦に勝つには「守り一辺倒」の国家の体質を憲法改正によって変えなければならないと論じ、会場の共感を得た。
 慰安婦問題に関しては、日本が女性を強制的に性奴隷にした事実はないと反論しても、元慰安婦に同情する国際社会の共感を得られないので、やめた方がよいと忠告する知日派が米国などには多い。しかし、今回のシンポジウムでは、日本の過去の行為について「濡れ衣」を晴らすため、政治家、外交官、民間研究機関などが一丸となって情報を発信し、反論すべきであるという点でパネリストの意見は一致した。
 日中間の尖閣諸島問題でも情報発信が重要なことは言うまでもない。小野寺氏によると、防衛相在任中、来日した米国の議員に対し、尖閣諸島の半分は射爆場として米軍に貸与されており、尖閣が中国領なら米軍は中国に砲弾を撃ち込むことになると解説して、米国が尖閣問題にコミットする重要性を認識させたという。(了)